【考察】近代護身ツール”クボタン”はなぜ流行らなかったのか【コラム】
- 2020.03.23
- 護身術
いつも心に1人の助っ人外国人選手を。どうもサイコ田中です。
突然ですが皆さんは、「クボタン」または「クボタン護身術」というものをご存じでしょうか?
クボタンはおよそ50年前にアメリカで一人の日本人によって見出された近代護身用ツールであり、
それを用いた護身術が「クボタン護身術」と呼ばれています。
銃社会アメリカで生まれた実践的な護身術であるクボタン護身術ですが、
その知名度はクラヴ・マガなどと比べると著しく低く、学べる場所も極めて限定的という印象を受けます。
なぜクボタンはセルフディフェンス業界で覇権を握れなかったのでしょうか。
ツールのご利用は計画的に……
護身用ルールにまつわる記事では毎度のようにお伝えしていることではありますが、
ツールの所持と使用は、完全に個人の自己責任に委ねられています。
要するに、「買って持ち歩くのも使うのも勝手だけど、どうなっても知らないよ」ということです。
一般に日本国内において”護身用”と謳われている製品の多くは、
実際には軽犯罪法に抵触するものであり、気軽に所持したり持ち歩いたりするべきではありません。
また一部のツールは使い方を間違えると文字通り命の危険が伴うリスクを抱えており、
取り扱いには専門的な知識と訓練が欠かせません。
身を守るためとはいえ、過剰な殺傷力のあるものや明らかに自己防衛の目的を逸脱した道具は、
単なる凶器でしかなく、その背景にある思想は犯罪者のそれと大差はありません。
あなたの目的が本当に身を守ることで、相手を傷つけることでないのならば、
”護身用”を謳った危険なツールを購入、所持または携行するべきではありません。
クボタンが覇権を握れなかった5つの理由
ここではクボタンまたはクボタン護身術が、それほど普及していない理由について、
実用性など5つの項目に分けてお話ししたいと思います。
ここに述べているのはあくまで個人の考察に過ぎませんが、
様々な護身用ツールに共通する問題点についても言及しています。
ツールの導入をお考えの方や護身術に興味をお持ちの方はぜひ参考になさってください。
簡単に持ち歩けない
キーホルダーとして車のキーなどと一緒に持ち歩けるその手軽さと秘匿性の高さが売りのクボタンですが、
実際に持ち歩くのはそこまで簡単ではないかもしれません。
クボタンの大きさは丁度手のひらに収まる程度か、それより少し大きいものが一般的ですが、
先端が鋭利な形状をしているものはポケットに入れると歩き難くなりますし、
太すぎるものはそもそもポケットにちゃんと収まってくれません。
また市販されているクボタンの多くはその用途から明らかなように奇抜な形状のものが多く、
仮に職務質問を受けた際に所持品を調べられた場合、面倒なことになる可能性が高いと言えます。
(実際に所持していた時に職質を受けたことがありますが、当然ながら「キーホルダーです」では誤魔化せませんでした)
正当な理由を説明できないようなものは、持ち歩くべきではないでしょう。
あまりにも低すぎる即応性
自己防衛において、対応の素早さ――すなわち即応性は欠かすことのできないものです。
酔漢や明らかな敵意を持った攻撃者から危害を加えられそうになった時、
ツールを抜いて反撃するのが早いか、
黙って頭突きを入れるのが早いかは、わざわざ語るまでもないことです。
身を守る上で「”今そこにあるもの”を利用する」のは鉄則の一つに違いありませんが、
持ち物(ツール)に縛られるのは好ましくありません。
ヒックの法則(Hick’s law)で明らかにされている通り、
人は選択肢が多いと迷って反応が遅れる傾向にあります。
クボタンのようなツールを所持するのは「お守り」として意味があるのかもしれませんが、
それを使うことにばかり意識を向けてしまって、”今そこにある武器”を効果的に使えないのでは本末転倒です。
あなたはクボタンを握りしめて街を歩きますか?
攻撃を受けたとき、あなたの手の中にはいつもクボタンがありますか?
リアルファイトのリアリティというものを、もっと鮮明にイメージしましょう。
決して高いとは言えない実用性
実際にタクティカルペンやクボタンを全力でターゲットにぶつけたことのある人はわかると思いますが、
高確率で手の中からすっぽ抜けるか、インパクトの瞬間に手の中で動いてしまいます。
あなたがずば抜けて握力が強く、手汗を一切かかないマッチョマンなら使いこなせるかもしれませんが、
大多数の人にとって、表面がツルツルしていて細いものを力いっぱいターゲットに突き立てるのは、
容易ではありません。
親指でしっかり上から押さえつけたとしても、インパクトの衝撃で手から外れてしまうことは珍しくありませんし、
力いっぱい打ったにも関わらず、それほどダメージを与えられない可能性さえあるのです。
ダメージを与えるには頼りなく、操作性も高いとは言えない……そのようなツールをあえて持ち歩くのは賢い選択とは言えません。
もしも私がクボタンを持っているときに攻撃を受けたとして、
近くに消火器やパイプ椅子などがあれば、迷わずそれらを手に取るでしょう。
指導を受けられる機会や場所がない
クボタンというツールに出会ってから、私は血眼になって国内の公開セミナーを探しましたが、
数えるほどしか見つけることができませんでした。
クボタンを用いた護身術を積極的に指導または共有しようとしているサークル自体は少なくないものの、
やはりクラヴ・マガや一般的な護身術教室などと比較すると限定的と言うほかなく、
正しい使い方を学べる機会にはなかなか恵まれないというのが現状のようです。
本職のセキュリティなどを対象とした法人向けのセミナーではクボタンを用いる機会もあるかもしれませんが、
一般人が参加するのはほぼ不可能なため現実的とは言えません。
使い方のわからないものを持っていてもしょうがないので、半自動的に「選ばれない」ということが起こるのかもしれません。
(一般の方が多いサークルなどで「クボタン」という単語を出してもあまり通じません)
本来の使い方では効果が発揮できない
「実用性が低い」という点と重なる部分ではありますが、
クボタンを本来推奨されている用法で使おうとしても、それほど効果を実感できないという問題点があります。
クボタンはその形状と性質から、相手の手首や二の腕の小さな急所を圧迫し、
スマートに制圧するのが理想的な運用法となっていますが、
相手がシンプルに太っているとか、分厚いコートなどを身に着けているとうまくいきません。
また握りこんで殴打することも出来るとされていますが、
「だったら普通にグーパンチでいいじゃん」と思ったのは恐らく私だけではないでしょう。
結局私がクボタンにハマっていた当時に参加していたサークルで編み出した使い方は、
・相手の顔めがけてダーツのように投げつける
・キーチェーンやネックレスに繋げて振り回す
・ナイフを持っているように「見せかける」
など、凡そ本来の使い道とはかけ離れたものになってしまいました。
窪田先生には本当に申し訳ないと思っています。
クボタンの本当の使い方は誰も知らない?
まるで夢オチみたいな酷い締めくくりになってしまいますが、
クボタンの「本来の使い道」は世界でも限られた人物しか把握していないというのが通説のようです。
その形状・性質は見ての通り完全に「暗器」のそれであり、
本来の目的は護身や自衛などではなく、暗殺や隠密行動における敵性対象の鎮圧など、
極めて物騒な用途が想定されていたと考えられます。
また一般向けに流通しているクボタンの多くはペンや太めのマジックのような、
フレンドリーな(?)見た目であることが多いのに対し、
軍事目的で生産されている一部のモデルは鋭利な部分が多く、メリケンサックのように武骨な形をしています。
クボタンと同じようなコンセプトのセルフディフェンスツールは数多く開発・販売されていますが、
数が多すぎるため本来の使い道がわからないものは巷に溢れかえっています。
そうした「よくわからないもの」をよくわからないままに持ち歩くのは好ましくありませんし、
仮に本来の使い方を知っていたとしても、それは恐らく人には言えないようなものでしょう。
どんな道具も正しい使い方を学ばなければ有効活用できませんが、
ナイフや銃などのように”使い方を知らないほうがいいかもしれないもの”があるということは、
いつも心に留めておきたいものです。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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