極限状態を想定した”ハードコア・トレーニング”のメリット・デメリット
- 2020.03.27
- 護身術
いつも心に1匹のオオグソクムシを。どうもサイコ田中です。
アメリカや中東を中心に軍事やセキュリティの分野において新たな主流となりつつある、
いわゆる”ハードコア・トレーニング(Reality-based Training)”ですが、
昨今では日本国内でもマガジムや一部の法人向けセミナーで受講できる機会が増えてきました。
今回はそうしたハードコア・トレーニングの練習内容とその効果、リスクなどについてお話ししたいと思います。
日本人が想定すべき”極限状態”とは?
そもそも犯罪率が低く世界的に見ても高い水準の治安が保たれている日本という国において、
極限状態とはどのような状況を意味するのでしょうか。
まず日本はアメリカのような銃社会ではありませんので、鉛玉が飛び交うことは通常考えられません。
(地域や場所によっては一定のリスクが想定されます)
よっていわゆるガンディフェンスや銃器を用いるタクティカル・トレーニングの類は身に着ける必要性があまりありません。
車上荒らしや窃盗、強盗などは他人事ではありませんが、
南米や海外のいわゆるスラムと呼ばれる地域のような差し迫ったリスクは皆無に等しく、
犯罪集団も目立たないように動くため高度なナイフ・ディフェンス技術等も要求されません。
(そもそも刃物を持った相手と向き合うべきではありません)
”煽り運転”などのロードレイジ案件は2018年ごろから急激に増加の傾向を見せつつありますが、
一般的な交通ルールを守って運転している限りはほとんどのドライバーにとって無視できる程度のリスクしかないという印象であり、
とりあえずドライブレコーダーさえ積んでおけば命に関わるような状況は回避できそうです。
日本人が想定すべき”極限状態”は1か月に1回発生するかどうかの凶悪犯罪や交通事故ではなく、
地震や台風などの天災や、現在世界で猛威を振るっている新型コロナウイルスなどのようなウイルス感染であり、
防災の知識や具体的な対策案などを身近な人と共有するほうが、よほど役に立つのかもしれません。
ハードコア・トレーニングのメリット・デメリット
本気で身を守りたいなら、ハードコア・トレーニングに取り組むのがもっとも確実であり、
短時間で確かな実力と自信が身につくことに疑いの余地はありません。
その一方で、通常のトレーニングに比べて大きなリスクと問題点を抱えていることも事実です。
ハードコア・トレーニングにはどのようなメリット・デメリットが考えられるのでしょうか。
ハードコアトレーニングのメリット
ハードコア・トレーニングのメリットは主に、
・短時間で無駄なく必要な知識と技術が身につく
・本当に効果があるメソッドのみで構成されている
・銃やナイフなどあらゆるガジェットを扱える
などであり、極めて実践的かつ効率的であることが窺えます。
短時間で無駄なく効率的なトレーニング
ハードコア・トレーニングではだらだらとミットやサンドバッグを叩いたり、
エアロビクスのように気持ちよく汗を流す時間はありません。
軍人や刑務官などが2週間から1か月と言った短期間で必要な技術と体力を身に着け、
現場で即戦力となることを想定されたトレーニングメニューが組まれるため、
文字通り「遊び」はありません。
練習内容の大半はフィジカルを徹底的に追い込む体力強化重視のワークアウトであり、
スパーリングをはじめとした対人練習、シチュエーション別の模擬戦など完全に軍事分野での実務を想定した内容となっています。
「使えない」技術体系は徹底的に省かれる
実務を想定していると述べた通り、ハードコア・トレーニングでは徹底して現実的なテクニックのみ採用され、
その効果が少しでも疑われるような技術体系は容赦なく省かれています。
例えば一般的な護身術に見られる「小手返し」などは相手がフィジカル面で上回る場合は効果が薄れるか使えないため、
代替スキルとして近距離での打撃技を中心としたコンパクトなアプローチや、
最初から急所のみに的を絞った超短期決戦型のコンビネーションなどが採用される傾向にあります。
(肘打ち、ハンマーパンチ、金的蹴り……etc)
ナイフ及びガンディフェンスに特化
海外の紛争地域や犯罪多発エリアでの軍事行動、警備業務などを想定していることから明らかなとおり、
銃器やナイフ、車両を使ったアプローチなど多角的なトレーニングメソッドが特徴です。
腰にハンドガンまたはナイフを装備した状態でのスパーリングやディフェンス・ドリル、
ライフルを装備した状態でのグラウンド・コントロールなど、通常の格闘技や護身術とは完全に趣を異にしており、
その目的は自衛よりも制圧・襲撃に特化していると言えるでしょう。
ハードコア・トレーニングのデメリット
短期集中で「本物のディフェンス・スキル」が身につくハードコア・トレーニングですが、
その高い実用性・即効性の裏には以下のような問題点があります。
・体力的なハードルが高く練習中の安全性が低い
・日本では過剰防衛となるスキルが多すぎる
・犯罪などへの悪用が避けられない
一つずつ見ていきましょう。
体力的に難易度が高く訓練内容が危険
軍事分野などを想定していることから明らかな通りある程度基礎体力が高いことが前提であり、
ハードな運動習慣や格闘技などの経験がなければ練習についていけない可能性があります。
(準備運動の段階で一般的な成人男性にとって強度が高すぎる動きがいくつも含まれています)
また一体多数や武装対非武装などの極限状態を想定したシチュエーション別トレーニングでは怪我のリスクが高くなる傾向にあり、
きちんと防具などを身に着けていても肋骨を折る、肩を脱臼するなどは珍しくありません。
日本国内では過剰防衛となるスキルが大半
極限状態での生存・抵抗を目的としているハードコア・トレーニングの技術体系では、
そのほとんどが法的にグレー、または完全に黒となるリスクを背負っています。
躊躇のない急所攻撃に始まり、ナイフや銃床・警棒などを用いた殴打なども含まれ、
相手を確実に制圧するため倒れた相手への執拗な攻撃なども当たり前のように指導されます。
これらは日本の法律において完全に正当防衛の域を超えたものであり、防衛のための技術ではなく、
攻撃・襲撃のためのテクニックという見方が妥当であり、凡そ実用的とは考えられません。
犯罪への悪用が避けられない
私が当ブログで動画や連続写真などを使って細かく技術を掲載しない理由の一つに、
「悪用されることを回避するため」というものがあります。
護身術に関わらずいかなる格闘技・武道においてもその技術は究極的に、
「如何にして人体を破壊するか」というテーマに収斂するものであり、
正しい思想・理念に基づいた指導・運用がなされなかった場合のリスクは計り知れません。
特に銃器・ナイフを用いたテクニックに重点を置いたハードコア・トレーニングの指導内容は、
もしも悪意ある人物が身に着けた場合はほぼ100%の確率で犯罪などに悪用されるため、
情報や知識の取り扱いには十分注意が必要と考えられます。
”防衛者”と”攻撃者”の微妙な境界
法的な側面での教育において頻出する例題として、
「武装した素人と丸腰の有段者」問題があります。
ナイフで武装した素人が、もしも誤って(おかしな言い方になりますが)空手の有段者をターゲットにしてしまった場合は、
果たしてどちらが”攻撃者”で、どちらが”防衛者”にあたるか、という問題です。
皆さんは、どちらが正解だと思われますか?
背後から襲う、刃渡りの大きな刃物を使うなどシチュエーションごとに見方は変わってきますが、
日本の法律ではほとんどの場合、刃物を持った者が”攻撃者”となります。
よって素手の有段者が身を守るためにナイフで武装した攻撃者を絶命させてしまったとしても、
正当防衛となり罪には問われないことになります。これは多少極端な例ですが、海外ではそれほど珍しくはないケースと言えます。
身を守るための技術を身に着けるのはとても大切なことですが、その能力は少なからず負の側面も抱えており、
暴力などの犯罪行為と表裏一体であることを忘れてはいけません。
あなたの目的が本当に身を守ることならば、身に着ける技術・知識は全て合法的な範囲で運用されるはずです。
”攻撃者”ではなく”防衛者”として生きるために出来ることは何か、常に自問自答し続けていく事こそが、
我々日本人が一人で安全に行えるハードコア・トレーニングなのかもしれません。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
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