【小ネタ】杖・ステッキは護身の目的に使うことができるか【コラム】

【小ネタ】杖・ステッキは護身の目的に使うことができるか【コラム】

いつも心に1頭のマッコウクジラを。どうもサイコ田中です。

世の中には色々な護身術がありますが、国内外を問わず頻繁に見かけるのが、

杖やステッキなどを用いた護身術です。

確かに形状や長さ、強度などの観点から十分武器として使うことは可能と思われますが、

本気で身を守る目的に使うのであれば、いくつかの問題点をクリアしなくてはなりません。


「護身用です」は言い訳にならない

杖やステッキに限らず、ある種の凶器としての側面を持った道具を携行する際、

「護身用です」と主張する人が多く見られますが、

それらのアイテムは既に護身の目的を逸脱しているため、言い訳になりません。

例えばアメリカなどの銃社会では何があるかわからないため、身を守るために最低限の武装としてナイフや警棒、

拳銃そのものを携行するのは特に問題ないと考えていいでしょう。

しかし銃刀法により殺傷力を持つ道具の所持・携行を厳しく規制している日本において、

それが例え護身の目的でも、人の命を奪う恐れのあるものを持ち歩くことはそれ自体が既に犯罪と考えるべきです。

(日本の法律では実際に軽犯罪法というものが存在します)

たとえ樹脂製の軽いステッキでも、全力の打撃が急所に当たれば体力のある若い男性でも決して無事では済みません。

同様に木製の杖なども、その本質は木製バットなどと何ら変わらないため、殴られれば致命傷になる可能性は否定できません。

警察官が警棒を所持しているにもかかわらず実際には使わない理由として、

「本気で殴ると犯人をその場で殺してしまう恐れがあるから」という話はあまりにも有名ですが、

その目的が人を殴打するためのものでなくとも、ある程度の硬さと重さ、強度のあるものを全力でぶつけるとかなり大きなダメージを与えることになり、

相手によってはその場で死なせてしまうことにもなりかねません。

もしもあなたが”護身用”と称して杖やステッキを持ち歩いているなら、

本当にそれは正しいのか、今一度自分自身に問い直してほしいと思います。


杖やステッキを使った護身術に共通する3つの課題

ここからは杖やステッキを用いた護身術が抱える致命的な問題点について、

使い方やシチュエーションなど3つの項目に分けて解説したいと思います。

杖やステッキを護身用として導入しようとお考えの方や、

現在実際に持ち歩いているという方は参考になさってください。

 

職質を受けたときの言い訳が難しすぎる

いきなり根本的な部分に触れますが、上にも述べた通り、

杖やステッキをあくまで”護身用”と称して持ち歩くのは難しすぎると考えられます。

あなたが実際に下肢または半身に何らかの疾患や障害を抱えており、杖を使わなければ歩くのが困難という訳でもない限り、

職務質問を受けたときのリスクは計り知れません。

どこも悪くないのに杖やステッキを突いて歩いていたら、

「じゃあ何でこんなもの持ってるの?」と問われるのは必定であり、

もちろん正直に”護身用”と答えるのは無理があり、それ以外の言い訳もかなり苦しいものになるのが目に見えています。

お洒落なデザインのステッキなどであればファッションとして持ち歩くのもありなのかもしれませんが、

先端にメタルが埋め込まれていたり、グリップ部分が特殊な形状をしているものは凶器としての効果が疑われても不思議でなく、

もしも警察官の目に留まってしまった場合は最悪その場で任意同行……ということにもなりかねません。

わざわざ言うまでもありませんが、警察官の目は節穴ではありません。

あなたが五体満足で健全な肉体を持っているにもかかわらず杖やステッキなどを突いて歩こうものなら、

必ず何らかの不信感を抱かれることは覚悟しておきましょう。

 

効果的に使える場面が著しく限定される

一般的な路上トラブル、リアルファイトの大半は、

息がかかるほどの超至近距離から、手が届く程度の至近距離から展開されます。

つかみ合いやにらみ合いになった時点で相手は手を伸ばせば届く距離に立っているのであって、

杖やステッキはもはや使い物にならないと考えるべきです。

あなたが本気で杖やステッキを自己防衛の目的で用いるのであれば、それらが有効な距離は手が届かない、

中距離以上のレンジであり、その目的は「対象をそれ以上近づけないこと」です。

中距離レンジで身を守るために杖やステッキを用いるのであれば、あなたは最初から攻撃者の存在に気づき、

杖を構えている必要があり、それはもはや護身ではなく単なる襲撃・攻撃に相違ないと考えるべきです。

(相手が手を出せない距離で先に手を出した場合、正当防衛が認められる確率は極めて低くなり、加害者になる可能性が濃厚となります)

また仮にあなたが相手に脅威を感じて距離を取り、杖を構えて闘う姿勢を見せたとしても、

相手が非武装(丸腰)であれば、傍から見ればあなたが攻撃者(加害者であり、

駆けつけた警官らも目撃情報などからあなたの言動に何らかの問題があったことを前提として取り調べを進めるでしょう。

”護身用”と称してその手のツール・ガジェットの類を携行するのは自由ですが、

何の関係もない第三者がそれらを手にしたあなたの姿を実際に目撃した時の印象なども、きちんと考慮しなくてはなりません。

明らかに身体の大きい人物が自分よりも小さい相手に襲い掛かっていたら、

例えその目的が「身を守ること」だったとしても、それを見た人の印象は一様に「一方的な暴行」になります。

まして誰がどこでスマートフォンを操作してカメラで撮影しているかわからない時代です。

「杖をぶん回すヤバイ奴がいた」などという無残なサブタイトルと共に動画投稿されたくなければ、

もっと現実的な防衛手段を考えたほうが無難でしょう。

 

有効な技術体系のサンプルが少なすぎる

日本には杖を使った武術として杖術が存在しますが、

あくまで体術としてのパフォーマンスに終始しており、実用性があるかどうかは疑問と言えます。

また海外にはバーティツ(Bartitsu)を初めてとした典型的なJ字型のステッキを用いた護身術が存在しますが、

その実用性・実戦における効果を疑問視され規模が縮小しており、業界から姿を消しているものが少なくありません。

(バーティツに関しては某映画の影響で多少盛り返している印象もありますが、指導者・継承者不足は避けられない印象です)

杖を用いた護身術はその大半が持ち手部分で相手の腕や首、足首などを引っかけてコントロールすることにより、

武装解除や制圧を素手よりもスムーズに行えると謳っていますが、先述の通り杖が使える距離は限定的なものであり、

適切なレンジを超えた攻防では結局徒手格闘(蹴りや突き)の出番となるため杖そのものが持つ意味が薄れがちな印象も否めません。

(結局普通にパンチ・キックで応じたほうがよほど速く・確実という局面があまりにも多すぎます)

非力な高齢者や女性にも覚えやすく安全に運用できるとされていますが、

カリスティックやクボタンなどのツールが単純な握力・腕力に依存するように、

どの道非力な人物が手にした場合は手からすっぽ抜けたり、攻撃の衝撃で自分が怪我をすることのほうが多いためその効果は疑わしいとも言えます。

徒手格闘が最適解でないにせよ、体力が無いからツールに頼る、ツールが助けになるという考え方は危険であり、

危険なツールの携行を正当化する理由にもつながるため、私個人として好ましくない印象が強いというのが本音には違いありません。

(弱い人がいきなり強くなったり、強い人がいきなり弱くなるということは現実世界では起こりえないと考えるべきです)


どうしても持ち歩くなら”折り畳みタイプ”を

ここまで杖・ステッキを持ち歩くうえでの問題点について長々とお伝えしましたが、

それでも「杖が欲しい」「ステッキを持ち歩きたい」という物好きな方には、

折り畳み式の杖をオススメしておきます。

伸縮タイプのものでれば文字通り特殊警棒のように用いることが可能であり、

カバンの中にしまっておいてもかさばることが無く取り出し・展開も比較的容易です。

3つ折りタイプの折り畳み杖はやや強度と安定性に欠けており、攻撃を受け止めるといった目的には適しませんが、

その形状から明らかな通り三節混やヌンチャクのように扱うことが可能であり、

手が届かない程度の中距離・近距離での攻防において力を発揮すると考えられます。

(破損による自爆が気がかりではありますが)

折り畳み式の杖であれば確かに携行することは容易ですが、やはり殺傷力のあるツールであることに変わりはありません。

繰り返しお伝えしている通り、ツールには一定の殺傷力とそれに伴うリスクがあることを十分理解したうえで、

本当に必要な場合にのみ導入・携行するようにしてください。

言うまでもありませんが、自己防衛・護身を言い訳にした暴力行為は犯罪です。

自分の身を守ることと、相手を不必要に傷つけること(襲うこと)を混同しないよう注意しましょう。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。