【小ネタ】なぜ中国武術の”達人”はボコボコにされるのか【コラム】
- 2020.05.06
- 格闘技
いつも心に1mmの怪しい金属片を。どうもサイコ田中です。
よくYoutubeなどの動画投稿サイトに、
「インチキ中国武術家が総合格闘家にボコられる」といったサブタイトルの動画が見られますが、
確かに実際見てみると目も当てられないほど無惨な内容となっています。
なぜ”達人”と呼ばれる人々が、こうもあっけなく倒されるのでしょうか?
最強の格闘技は存在するか
こうした話題を取り扱ううえでいつも浮かび上がる疑問として、
「最強の格闘技は何か」というものが挙げられますが、
今日まで様々な格闘技に触れてきた私自身としては恥ずかしながら、
「わからないし、考えても仕方がない」とお答えするしかありません。
考えられる理由として、
・そもそも「競技」ですらない武道の存在
・比較評価の基準がどこにもない
・体格差や年齢などを考慮すると結果が変わる
など、一つひとつの武道・武術を単純比較するのは極めて困難であり、
仮に異種格闘技戦のように競う場を設けることが出来ても、
ルールによって天と地ほどの差が生じることが懸念され、とても現実的とは考えられません。
(ボクシングとキックボクシングを「ボクシングルール」で行うか「キックルール」で競うかは決定的な差になります)
そもそも競技的な側面が無く、ルールの上で他者と競うことを前提にしていない武術などはそのポテンシャルを測りようがなく、
強い・弱い以前に、「どんな場面で機能するのか」すらイメージできない始末です。
(いわゆる「忍術」や「暗殺術」の類がこれに該当すると考えられます。そんなものがあればの話ですが)
格闘技を語る上で永遠のテーマである「最強の格闘技」ですが、
答えが出る日はずっと先になるかあるいは、そんな日は永遠に訪れないのかもしれません。
中国武術家がボコボコにされる3つの理由
ここからは中国武術のいわゆる”達人”と呼ばれる人々が、
総合格闘家やキックボクサーらにことごとく圧倒される理由について、
体格や年齢など3つの項目に分けて説明したいと思います。
いわゆる”達人”の謎や中国武術そのもの、競技としての格闘技の問題点など様々なポイントから切り込んでいます。
格闘技はもちろん、身を守ることやリアル・ファイトに興味をお持ちの方は参考になさってください。
事前準備の時間が無い
格闘技をやっている人間にとっては当たり前の話になりますが、
対戦相手についての情報があるのとないのとでは、対応に決定的な差が生じます。
・得意な攻撃は何か
・弱点として考えられるポイントはどこか
・持久力(スタミナ)とパワーのバランスはどうか
・単純な打たれ強さ
など、知っておくと対応に差が出る要素は数え切れません。
対戦相手の過去の試合映像などを見るだけで集められる情報は多く、
そうして得られた情報から分析を重ねることで、実力に差のある相手でも攻略の糸口が見つかることがあります。
逆に事前に何の情報も与えられず、
「今日の対戦相手です」と言っていきなり目の前に現れた相手と闘わされた場合は、どんなに優れたファイターでも多少の戸惑いが生じます。
中国武術の”達人”らがボコボコにされている映像はその全てが企画もののいわゆる「チャレンジ・イベント」であり、
恐らく”達人”のほうも、その相手をする方も事前情報はほぼ与えられていません。(顔と名前、年齢程度と推測されます)
そのような状況でいきなりファイトになったとして、果たしてどちらが生き残るか……それはもはや、
単純なフィジカルの強さと持久力など、シンプルな個人の身体能力に依存します。
そしてその結果から明らかな通り、身体が大きく若さと勢いのあるMMAファイターやキックボクサーが、
”達人”を文字通り子ども扱いするという残念な(そしてある意味当然の)結果へとつながるのです。
「本気で倒しに来る相手」を想定していない
中国武術に限った話ではありませんが、伝統武術の多くは礼節や精神面など、
とにかく形式にこだわる傾向が強いと言えます。
この「形式へのこだわり」は当然練習にも色濃く表れており、
・互いの役割と立ち位置
・攻撃の方法と受け方
・立ち回りの流れ
など細かく条件付けがされたうえでの対人練習がメインとなり、
「本気で自分を倒しに来る相手」を一切想定していません。
(合気道やシステマなどが典型的な例として挙げられます)
自分に協力的なパートナーとひたすら「形式(スタイル)を崩さないこと」にのみフォーカスした一定の動きばかりを繰り返して、
普段からハードにスパーリングをこなしているファイターに勝てるはずが無いのです。
まして型にはまらない変則的な攻撃手段を多用するMMAファイターなどは、
綺麗な「形式練習」ばかりをこなしてきた多くの”達人”にとって異次元の存在であり、
見たこともない攻撃の連続にパニックを起こし、そのまま勢いで押し切られるという構図が生まれることになります。
年齢・体格差が考慮されていない状況でのファイト
上に述べた通り、互いに目的や技術体系の異なる武術や格闘技がぶつかるとき、
最終的に問われるのは個人の身体能力と神経系の発達であり、
単純な身体の大きさと若さにのみ依存すると言い換えることも可能です。
いわゆる”達人”がボコボコにされている動画の大半は、明らかに”達人”のほうが老いており、
挑戦者は若者という構図が出来ており、最初から条件がフェアではありません。
また年齢のみならず体格差・ルールの設定もガバガバとしか言いようがなく、
これでは初めから”達人”を公開処刑するために設けられたある種の「見世物」と思われても仕方ないでしょう。
(挑戦を受けた”達人”が愚かなのか、主催側の人間に問題があるのかは判断がつきかねるところですが)
よってこの手の動画を見て、その印象だけで「中国武術は弱い・使えない」とか、
「”達人”は存在そのものがインチキ」と断じるのは無理があり、あまりに無責任と言うほかはありません。
本当に各武術・武道のポテンシャルを測るためには、
それ相応の環境と条件が整っている必要があることを理解しなければならないでしょう。
「”達人”がボコられる動画」から学べること
ここまでいわゆる”達人”がボコボコにされる動画について述べてきましたが、
こうした残念な結果から見て学べることは少なくありません。
まず単純に「若くて力の強い人には手も足も出ない」ということが言えます。
ナイフや銃を使えるのなら話は別ですが、基本的に自分より若くフィジカルで上回る相手を倒すというのは極めて困難であり、
至近距離でファイトになった時点でほぼ勝ち目はないと判断すべきでしょう。
このような相手に対して出来ることは動画の中で”達人”たちがしたように、
・ダメージをアピールしてファイトから降りる(降参)
・誰かに止めてもらう(助けてもらう)のを待つ
・とにかくリング上を逃げ回る
などであり、真っ向勝負以外の全てが対策になるとも言えます。(それ以外は無意味とも取れます)
また一部の”達人”が器用にクリンチ(抱き着き)で時間を稼いだり、自分から倒れることでその場を凌いでいましたが、
その場であっけなくKOされることを回避できるならこのような対応も効果的と言えそうです。
動画の”達人”たちは残念ながら逃げ場のない状況で(ルールに従った)ファイトを強いられましたが、
リアルファイトの場面ならいつでも「走って逃げる」「負けを認め立ち去る」という選択肢は有効です。
ファイターにとっては文字通りの完敗でも、
自分より身体の大きい相手や若さのある相手と無理に張り合うことを避け、
たとえ惨めな思いをしても無傷でその場を立ち去ることが一般人にとっての勝利です。
大切なことなのでもう一度。
「家に帰ればあなたの勝ち」です。覚えておきましょう。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。
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