防衛手段としての投げ技・テイクダウンの効果とリスク

防衛手段としての投げ技・テイクダウンの効果とリスク

いつも心に1丁のコルト・パイソンを。どうもサイコ田中です。

日本はともかく海外ではブラジリアン柔術や柔道の指導者が、

投げ技やテイクダウンをそのままセルフディフェンスに応用するテクニックを紹介しているのを見かけますが、

実際のセキュリティ業務に従事していた私にとってそれらはあまり現実的とは言えず、

多くの疑問を感じるというのが正直なところです。

今回はそうした柔術等の投げ技・テイクダウンといった技術体系を護身の分野に応用する際の効果と危険性についてお話ししたいと思います。


実際のリアルファイトはとにかく地味

よくドラマや映画では、登場人物が暴漢などを華麗に制圧して地面に組み伏せたりしていますが、

現実はもっと泥臭く地味で、みっともないものになることが大半です。

どうにか相手を押さえつけたはいいにしても、顔面は血だらけでお互い服がはだけてボロボロとか、

暴れる相手を抑えようとして顔中鼻水や唾液、返り血でぐちゃぐちゃというのは珍しくありません。

あまりに幼稚で動物的なものであり、とてもスマートな対応とは言えませんが、

攻撃者も防衛者も互いに「本気で」「必死で」向き合っている場面というのはそういうものです。

普段は完璧なフォームでシャドーが出来たり、華麗にミットやサンドバッグを叩く人が、

いざファイトになるとフォームも何もない、素人と変わらない挙動になってしまうのは、

それだけ目の前の状況が切迫していて、普段通りに動けないほどの緊張を強いられているからに他なりません。

どんな分野でも反復練習は大切なものであり、基礎を疎かにして得られるものなどありませんが、

セルフディフェンスのように過度の緊張状態、高いストレスに晒された状態を想定した技術体系では、

特に基本の動作を正確に再現できるかどうかが課題になります。

ストレスの影響を受けず「いつも通りの動きができる」というのは決して簡単なことではありませんが、

極限状態で大きな力を発揮する武器になります。

もしもあなたがトラブルの現場で漫画や映画の登場人物のように華麗に立ち振る舞いたいという願望を持っているなら、

一流アスリート並みの精神力と基礎の反復が求められることは言うまでもありません。


護身術としての投げ技・テイクダウンの効果とリスク

ここからは護身術として投げ技やテイクダウン、グラウンドテクニックを応用する際のメリットとデメリットについてお話しします。

柔術や柔道を習っていてそれらを護身の目的に使おうとお考えの方や、

これから護身術としてそれらの格闘技を学ぶことをお考えの方は参考になさってください。

安全なテイクダウンと制圧の方法も併せて紹介しています。

 

投げ技の利点と危険性

路上のファイトにおいて、キレのある投げ技は強力な武器になります。

相手を一瞬にしてその場に組み伏せ動きを制し、余計な追撃が不要なためそのまま助けを呼ぶことも出来ます。

また相手が武装しているような場面でも確実なテイクダウン技術を持っていれば優位に立てることは間違いなく、

武装解除までの流れを安全に、そして速やかに構成することができるという点も大きな強みと言えます。

 

しかし圧倒的な強みのある一方で、投げ技にはいくつかの致命的なリスクがあることも事実です。

まず相手を誤って頭から、あるいは背中を強打するような形でコンクリートやアスファルトの上に投げ落としてしまった場合、

打ちどころによっては命に関わるダメージを負わせてしまう恐れがあり、大変危険です。

(これはパンチなどでノックアウトした相手が失神して後ろ向きに倒れるなどした場合も同様です)

また安全にテイクダウンしたつもりでも相手が身体に何らかの疾患や障害を抱えていたような場合も、

場合によっては命を落としかねない事態に繋がるリスクがあることも事実です。

さらに投げ技・テイクダウンしか選択肢が無い場合、「その対応が適さない場面」での柔軟性が大幅に低下するため、

結果として自分自身の身を危険に晒すという可能性も無視できません。

このように、柔術・レスリング・柔道などの組技系、投げ技系格闘技をそのままセルフディフェンスとして応用するには多くの課題があり、

初心者はもちろん、該当する格闘技の経験者自身にもお勧めできないというのが私個人の見解です。

(柔術や柔道などが護身術として役立たないという意味合いではありません。誤解を与えてしまった場合は申し訳ございません)

 

安全な倒し方と制圧のポイント

路上のファイトで安易に投げ技やテイクダウンを用いると思わぬリスクに晒される可能性があることをお話ししたところで、

ここからは路上における対人トラブルの場面でなるべく安全に相手を倒すテクニックと制圧する際のポイントについて解説したいと思います。

 

足を踏んで体勢を崩す

現代護身術ではメジャーなテクニックであり、多くのセミナーで中級者以上を対象に実演されることが多い印象があります。

やり方はいたって簡単で、シンプルに相手のどちらか片方の足(つま先付近が望ましい)を踏みつけ、

適度な力で押す・引くなどして体勢を崩してやるだけです。

あまりに体格差の大きすぎる場面では使い物になりませんが、体格が同程度か自分よりも小さい相手の場合は、

これだけでその場に相手を転ばせたり、大きくバランスを崩させることが可能です。

相手が質の悪い酔っ払いなど、直接手を上げたり投げ倒したりするのが好ましくない場面で特に有効であり、

上手くやれば相手の靴を脱がして裸足にすることができるため、そのまま逃げるというオプションも広がります。

 

首根っこを掴んでうつ伏せに倒す

路上で投げ技・テイクダウンを用いる際の致命的なリスクは、

倒した相手が背中や後頭部を強打してしまうことです。

こうした事態を避けるためにも、相手を倒す際はなるべくうつ伏せに、

顔が地面につくようにして倒すことが好ましいと考えられます。

私が実際にセキュリティとして勤務していた際に用いていたテクニックは、

シンプルに相手の首根っこ(シャツや上着の襟)を掴んで、

頭を強打しないよう腕で支えながら組み伏せるというものです。

このようにすれば命に関わる急所を強打するリスクは大幅に軽減でき、

凶器を持っている場合も腕を後ろに回してチェック又はコントロールすることが容易になります。

体格差が大きい場合は困難なうえに、安全性を最大限まで高めるためには2人以上で臨む必要がありますが、

相手を必要以上に傷つけることの無い、比較的優しいテイクダウンと制圧には違いありません。

 

後ろから近付いて膝カックン

冗談みたいに聞こえるかもしれませんが、安全かつ効果的なテイクダウンの一つです。

裸絞か羽交い絞めの形で後ろから相手の上半身の自由を奪い、

軽く膝の後ろ側かふくらはぎを蹴って、ゆっくりと後ろ向きに倒していきます。

非常にメジャーなコントロール・テクニックですが、注意点が2つあります。

1つは、自分から腰を落として体重をかけ、座り込むようにすることです。

当たり前ですが、相手を抑えたまま何も考えず後ろに倒れこむと、

尾てい骨や腰、背中などを強打して自分がダメージを受けることになります。

ゆっくりと尻もちをつくように、膝のクッションを使って重さと衝撃を吸収しながら腰を落としていけば、

自分も相手も大きなダメージを受けることはありません。

2つ目のポイントは、相手の頭を力任せに引かないことです。

よく後ろ向きに倒すテクニックを実演する際、後ろから目隠しをするように相手の顔を両手で覆い、

そのまま強引に後方へ引き倒すようにするパフォーマンスを見かけますが、

首や背中に強い負担がかかると同時に、後頭部から地面に崩れ落ちる可能性があり大変危険です。

相手を後ろ向きに倒して制圧する際には必ず相手の身体に密着するような形で自分が地面との間に入り、

足元からゆっくりと座り込むようにして倒すことを心がけましょう。


やむを得ず相手を投げる際には「足元に注意」

ここまで投げ技・テイクダウンが持つ強みとそのリスクについてお話してきましたが、

「それでも俺は敵を投げ倒す」というタフな方には、ぜひご自身の足元に注意を向けていただきたいと思います。

投げ技に絡んで私が経験した最も恐ろしい事態は、

「相手を投げた床に大量のガラス片が……」というものでした。(想像するだけで痛いし怖いですね)

居酒屋やバーなど、お酒の席で特に多いと思われるのが、割れた食器や瓶などの破片が床に散乱しているというシチュエーションです。

このような状況では投げ技・テイクダウンは勿論のこと、取っ組み合いなどのグラウンドファイトに発展した場合、

両者ともに信じられないほどの外傷を負う可能性が高く、大変危険と言えます。

他にもシンプルに投げ落とした先が硬いコンクリートの上だったとか、

錆びた釘が何本も突き出しているような古い家屋の床だったなど、

過剰防衛案件になること間違いなしの状況はいくらでも想定されます。

投げ技・組技・テイクダウンに絶対の自信があるという方も、

どうか攻撃者を制圧する際には足元の状況をしっかりと見極めてほしいと思います。

あなた自身が加害者、ひいては犯罪者にならないためにとても大切なことです。どうか忘れないでください。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。