【一人で出来る】”片足立ち”から覚える基本のキック【宅トレ】

いつも心に1本のB級アクション映画を。どうもサイコ田中です。

現代護身術において最も基本的な攻撃はパンチや肘打ちなど、上半身を使った打撃攻撃ですが、

基本的なパンチに次いで即効性が高いのは何といっても急所への蹴りです。

今回はそんな護身術としてのキックを、誰でも出来る”片足立ち”から一緒に覚えていきましょう。


基本的に路上のファイトで蹴りはNGだが……

格闘技におけるキックは強力な武器に違いありませんが、

ルールの無い路上のファイトでは、積極的に蹴りを使うべきではないというのが一般的な考え方です。

・蹴り足をつかまれる

・バランスを崩し転倒する

・金的へのカウンター

など、そのリスクは挙げ始めると切りが無く、とても有効な攻撃手段とは思えません。

しかし蹴り足を素早く引くことのできる膝蹴りや金的蹴りなど、効果的な使い方があることも事実です。

基本的に腰以上の高さに脚を上げなければ大きくバランスを崩すこともなく、

よほど足場が悪いわけでもなければ転倒のリスクはほぼ無いため、相手の下半身を狙う蹴りはむしろ積極的に狙うべきとも言えます。

仮に蹴りで倒すことが出来なくても、下半身に相手の意識を集めることで、頭部を狙った攻撃が当てやすくなるというメリットもあります。

また相手の頭や上半身の高い位置を狙う蹴りを放つ機会はない(使うべきではない)ため、

180度開脚できるような股関節の柔軟性も必要ありません。

(怪我をしない程度に柔らかければそれで十分です)

 

路上のファイトで攻撃手段としてキックを用いる際のリスクについては、以下の記事でも詳しく解説しています。

↓ ↓ ↓

路上で蹴りを使ってはいけない3つの理由


”片足立ち”から始める基本のキック練習法

ここからは誰でも出来る”片足立ち”の姿勢からスタートし、

実際に自己防衛の目的で効果的に運用できる蹴りを身に着ける練習法について、

3つのステップに分けて解説します。

とにかく片足立ちが出来れば性別・年齢は関係ありません。

身を守ることに興味をお持ちの方、いざという時「ただやられるだけ」で終わりたくないという方は、

ぜひ参考になさってください。覚えておいて損はないはずです。

 

ステップ1:まずは普通の”片足立ち”から

その場に片足で立って、両手でバランスを取っていきましょう。

膝を骨盤のライン(おへその少し下辺り)まで上げ、地面についているほうの脚は膝をしっかりと伸ばしましょう。

最初はふらふらしたり、身体が大きく傾いたりしてしまうかもしれませんが、

とりあえず10秒間耐えられれば全く問題ありません。

片足ずつ交互に、10秒を目安にしっかりと片方の足でバランスを取る感覚を掴んでください。

慣れてきたら少しずつ時間を延ばし、両脚とも30秒間を目標に姿勢を維持できるようになりましょう。

片足立ちの姿勢を30秒間安定して保つことが出来るようになったら、次のステップに進んでください。

(最初からできるという人や1週間近くかかってしまう人など個人差があると思いますが、自分のペースで焦らず取り組んでいきましょう)

 

ステップ2:膝を前に押し出す(膝蹴り)

片足立ちの姿勢を難なく維持できるようになったら、

今度は腰の高さに上げた膝を、小さく前方へ押し出すような動作を加えてみましょう。

骨盤を水平に回旋させるイメージで、膝のお皿を押し込むようにして突き出します。

この際上体が後ろに反ったり、支えている脚の膝が曲がったりするかもしれませんが、

そこまで細かくフォームを気にする必要はありません。

曲げた膝を前に押し出すようにする動きだけを繰り返し、骨盤の回旋とお尻の筋肉の収縮を感じられればそれで十分です

慣れてきたら、踵を太ももの裏(お尻)に引き付けるようなイメージでしっかりと膝を曲げ、

膝の先を尖らせるようにイメージしていきましょう。

軸足(支えているほうの脚)の膝が伸び、上体を適度に逸らしてバランスが取れるようになれば、

自然に効果的な膝蹴りのフォームが身につくはずです。

感覚が上手く掴めないという方は、とにかく脚の付け根から膝の先端を一本の丸太か槍のように見立て、

前方へ突き込むようなイメージを持ってトライしてみましょう。

膝をできる限り高く持ち上げ、上から下へ落とすようにするとわかりやすい場合もあります。自分に合った感覚の掴み方を探ってみてください。

 

ステップ3:曲げている膝を伸ばす(金的蹴り)

膝蹴りのイメージがしっかり掴めるようになってきたら、

今度は曲げている膝をゆっくりと伸ばしていきます。

最初は時間をかけてゆっくりと、膝を伸ばして戻すという動作だけを繰り返してください。

(膝から下をぶらぶら揺らしたり、回したりする動きも効果があります)

膝の曲げ伸ばしに痛みや違和感がなく、しっかりとバランスも保てるようなら問題ありません。

ステップ2では曲げたままの膝を突き入れるイメージでしたが、

ここでは膝をしっかりと伸ばし切り、膝を支点に脛からつま先を加速させて蹴るような意識を持ちましょう。

片足立ちの体勢から軽く反動をつけて曲げた膝をお尻のほうに引き付け、一気に下から上へすくい上げるようにします。

一番勢いがつくところで太ももの動きを止めると、膝から下が慣性で勝手に前方へ投げ出されていきますが、

膝を伸ばし切ったときにつま先が自分の腰よりも下、膝の高さよりも上に達していれば、相手の金的(股間)に蹴りが入ります。

脚が高く上がりすぎず、かといって低すぎないところでブレーキがかかるようになるまで繰り返し練習し、

膝から先をスナップさせる(鞭のようにしならせる)感覚を掴んでいきましょう。

片足立ちの体勢から足を前後に振る動作はハムストリングス(太ももの裏側)の動的ストレッチにもなるため、

感覚がうまく掴めなければまずはストレッチ感覚で脚を振り上げる動作だけを何度も繰り返すだけでも問題ありません。

最終的に構えた体勢(軽く蹴り足を後ろに引いた体勢)からスムーズに蹴り足を振り上げ、

何度繰り返しても金的の高さでつま先が止まるようになれば、基本の金的蹴りが身についたことになります。


全てのステップを組み合わせてキックをマスター

ステップ1から3を無事クリア出来た方は、

最後に全てのステップを組み合わせた動作を試してみてください。

片足立ち→膝蹴り→金的蹴り……という動作になりますが、

これはムエタイ発祥の地タイでプロのムエタイ選手が実際に取り入れているキックドリルであり、

非常に合理的な練習方法となっています。(ムエタイ選手は金的蹴りのところを前蹴りにしています)

順番を変えて片足立ち→金的蹴り→膝蹴りなどとしても構いませんし、

実用性の観点から膝蹴り→金的蹴り×3などするのも面白いでしょう。

片足立ちでしっかりバランスを保ち、蹴りの動作においても大きく姿勢が崩れなくなれば、

あなたの蹴りは十分効果的・実戦的なものになったと言えるはずです。

・バランスを崩さない(片足立ち)

・膝を前に強く突き入れる(膝蹴り)

・蹴り足を素早く引く(金的蹴り)

といったポイントをしっかりと意識し、本当に使えるキックをマスターしていきましょう。

言うまでもありませんが、覚えた蹴り技は身を守る目的のみに用い、

暴力や犯罪に悪用することの無いよう注意してください。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【小ネタ】ナイフを持ち歩く人間の行動と心理【コラム】

いつも心に1本の松の木を。どうもサイコ田中です。

ぞっとするような話ですが、”護身用”など称してナイフなどの凶器を持ち歩いている人は、

どこにでもいると考えたほうがいいでしょう。

特に昨今は電車の車内や駅の構内、歩行者天国のような一般の往来で、

刃物による無差別殺傷事件(通り魔事件)が起こることも珍しくはありません。

今回はそうしたナイフなどのような凶器を持ち歩く人間の心理と行動について、

現時点で私が理解している範囲で解説していきたいと思います。


人を見た目で判断することはできない

よく「人は見た目が9割」とか「見た目が100%」などと言われますが、

人を見た目だけで判断することは不可能です。絶対に出来ません。

例えばアイドルのような可愛らしい、一見すると可憐な容姿の若い女性でも、

カバンの中には何が入っているかわかったものではありません。

(物騒なもの・いかがわしいものが入っていても、実際にそれを確かめるまではわかりません)

反対にどう見ても挙動不審で怪しさしかないような人物でも、

実際にボディチェックをすると何かのレシートぐらいしか出てこなかった、ということも普通に起こりえます。

単純な顔立ちや背格好、服など身に着けているものから得られる情報は決して少なくはありませんが、

人を見た目だけで判断し、敵性かそうでないかを区別することは絶対に出来ません。

あなたが本当の危機管理能力を身に着けたいなら、

「近づく者は全て敵(かもしれない)」ぐらいの意識が丁度良く、

見かけの印象や雰囲気に流されないフラットな目線を保つよう心がけましょう。


凶器を持ち歩く人間に共通する3つの行動とその心理

ここからはナイフなどの凶器を持ち歩く人間に共通する心理と行動について、

主に私自身の経験を基に解説していきたいと思います。

身を守ることに興味をお持ちの方はもちろん、身近にそのような人物がいて不安を感じておられるという方、

実際に自分自身が凶器を持ち歩いているという人は参考になさってください。

***管理人には犯罪心理学の知識も無ければ、特別な資格なども一切持ち合わせておりません。あくまでも実際の警備業務を通した経験のみを基にした考察であることを最初にお断りしておきます。***

 

凶器を手の中で弄ぶ(確かめる)

凶器を携行しているほぼ全ての人間について当てはまる行動に、

無意識に隠している凶器に触れる、というものが見られます。

例えばポケットにナイフを隠している人物であれば、特に用もないのにポケットに手を入れてナイフに触れたり、

ポケットの上から何度も触れるようにします(触れたままにしていることも)。

こうした行動には、

・落としたりしていないか確認している

・周囲に危険なものを持っていることをアピールしたい

・触れることである種の安心感を得ている

といった目的があると考えられ、いずれもナイフのような凶器を持っていることをどこかで後ろめたく感じている一方で、

「武器を手にしている」という端的な事実により自己のイメージを拡大し、ありもしない万能感や全能感に浸っているようにも見られます。

ファッション感覚やある種の「お守り」として持ち歩いている分には特に問題ないのですが、

中にはいざという時本当に使うつもりで携行している人間もいることは事実であり、その危険性は計り知れません。

実用性を考慮している人間の場合はカバンの中など取り出しにくい場所ではなく、

ジャケットの内ポケットやベルトの周辺、ポケットなど素早く取り出せる場所に隠していることが多く、

場合によってはずっと手の中に握りしめている可能性さえあります。

このような人物は無意識にナイフを隠している場所に手で触れる傾向にあるため、

もしも衣服に不審な膨らみを見つけたり、カバンの中に手を突っ込んだままの人物に気が付いたときは、

手の動きを追いかけることで凶器を発見できるかもしれません。

 

衣服や手荷物で隠すようにしている

実際の警備業務において私が警戒レベルを最大にして接していたのは、

ぶかぶか・だぶだぶの衣類を身にまとい、カバンなどで片方の手を隠すようにしている人物でした。

サイズの大きいフード付きパーカーなどは大きな凶器を隠すことに適しており、

ミリタリージャケットなどはポケットが内外を問わず大きく作られているため危険なものを隠し持つことにうってつけと言えます。

またカバンの中に隠しているだけならまだしも、

カバンなどの手荷物で凶器を持っている腕そのものを覆い隠し、即座に攻撃できるようにしている人物とも遭遇しました。

特に冬場は単に着ぶくれしているだけなのか、危ないものを隠し持っているのか区別のつかない人物が多く、

ある程度まで脱がせてやっと出てきた、ということも少なくはありませんでした。

(下着の中に小さなモーフィングナイフを隠している女性がいて血の気が引いたのは、今となっては笑い話です)

このような人物は自身が危険なもの・違法なものを持ち歩いているという事実を明確に自覚しており、

半端に理性が働いているだけに質が悪いという印象があります。(隠すことに頭を使っている時点で危険です)

またこうした人物は実際に触れるなどして確かめない限り凶器を携行しているかどうかの見極めが難しいため、

襲われてはじめて気づく、という最悪の結果になる可能性が高く非常に危険と言えます。

もしも季節外れの厚着をしている人物やダボダボのだらしない服装の人、

カバンや紙袋などでどちらかの手が見えなくなっている人物に気が付いたときは、

手が触れない程度の距離を保つか、可能な限り距離を置くことを意識したほうがいいでしょう。

 

パトカーや警察官を見て挙動不審になる

パトカーを見て目を逸らす人物は職務質問を受ける確率が高いと言われていますが、

警察官や警備員などを気にするような素振りや、遠ざかる(遠ざける)ように動く人物には警戒が必要です。

言うまでもなくこのような人物には何か心にやましいところ、後ろめたい部分があり、

自分を断罪できる(捕まえて追及できる)権限を持つ存在を極端に恐れていると考えられます。

こうした回避行動は凶器の携行のみならず万引き・窃盗・痴漢など、

罪の意識や罪悪感を抱えているからこそ生じる不安と焦りに起因するものであり、

パトカーを目にしたり、サイレンを聞く、警察官や警備員の姿を見たときなどに、

・目が泳ぐ

・大げさな咳払いをする

・小走りまたは早歩きになる

・手で口の周りを隠すようにする

といった不審な挙動として表出します。

もしも身近にこうした動きを見せる人物が見られた際には十分警戒し、

特に関わりのない人物なら距離を置き、身近な人物ならさりげなく事情を窺うなどしましょう。


もしも「危ない人」を見つけてしまったら

もしも凶器を持っている人物やその可能性を感じさせる危険人物の存在に気づいても、

絶対にその場で咎めたり、取り押さえようとしてはいけません。

凶器に準ずるようなものを持ち歩く、いわゆる軽犯罪法に抵触する振る舞いをする人物に声をかけたり逮捕・連行するのは我々民間人ではなく、

あくまで警察官の仕事です。

確かに私人逮捕といって一般人がその場で犯人を取り押さえる権利も認められてはいますが、

それは決して義務ではなく、よほど差し迫った状況でもなければ本職の警察官に委ねられるべきです。

また下手に正義感を振りかざして動いた結果、本当に危険な相手を敵に回し、

その場で実際に凶器を使った攻撃を受けて命を落とすという最悪の事態は十分に想定されます。

もし凶器を持ち歩いているような人物を見つけても絶対に言葉や行為で刺激したり、近づいて武装解除しようなどと考えてはいけません。

あなたの勇気ある行動により多数の命が救われる可能性もあることは確かですが、

危険人物を凶行へと駆り立てるきっかけにもなることを忘れてはいけません。

上に述べた通り、そのような「危ない人」を見つけたり気が付いたりしたときは可能な限り距離を置き、

最低でも手の届かない距離は確保した上で、なるべく速やかに警察や警備員などに相談してください。

あなたも私もスーパー・ヒーローではありません。

凶器攻撃を受けたらあっけなく命を落とす、ただの人間でしかないという事実をしっかりと認めたうえで、

どうすれば自分や周囲の人々が受ける被害が最小になるかを最優先にして意思決定・行動していきましょう。

身を守ることが目的なら、ちょっと怖がりなくらいが丁度いいのです。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

今日から始める護身術29【初めてのシャドーボクシング】

いつも心に1頭のヤマアラシを。どうもサイコ田中です。

身を守るテクニックを安全に、そして効率的に学べる練習方法の代表的なものとして、

シャドーボクシングが挙げられます。

今回はそんなシャドーボクシングに取り組む際の注意点とポイントについてまとめましたので、

一人でコツコツ強くなろうとお考えの方や、身を守ることに興味をお持ちの方は参考にしてください。


ウォーミングアップはしっかりと

格闘技経験者の方の中には、

シャドーボクシング(以下シャドー)そのものをウォーミングアップとして行っているという方もいらっしゃるかもしれませんが、

出来れば事前にウォーミングアップと最低限の準備運動は済ませておきたいものです。

確かにシャドーは心拍数を上げながら全身の筋肉・関節を温めてほぐし、効率的にウォームアップさせることが可能ですが、

それは普段から何らかの格闘技やハードなスポーツ、身体づくりに取り組んでいる人にのみ当てはまることであり、

初心者の方や運動習慣の乏しい方、身体がそれほど柔軟でないという方は、事前にしっかりとストレッチをする必要があります。

シャドーの前に肩や腰、背中などをほぐしておくことで怪我を防ぐとともに、

身体に負担のかからない、自然なフォームで動くことが出来るようになります。

またウォームアップが十分でないまま急に肩や腰を素早く回旋させるなどした場合、

靭帯・関節に想像以上の負担がかかり、場合によっては大きな怪我や障害につながる恐れもあります。

シャドーを行う前には特に肩・腰・肘などを入念に動かして違和感や痛みが無いかを確かめながら、

硬さや張りを感じなくなるまでしっかりとほぐしていきましょう。

下半身のストレッチも忘れずに。

 

柔軟・ストレッチについては、以下の記事で詳しく解説しています。

↓ ↓ ↓

今日から始める護身術27【護身に役立つストレッチ】


シャドーボクシングで注意すべき7つのポイント

ここからは特に初心者の方がシャドーに取り組む際注意すべきポイントについて、

姿勢や動作など7つの項目に分けてお伝えします。

シャドーに取り組むうえで特に必要な装具・道具のようなものはありません。

動きやすい服装に着替えて準備運動が出来たら、ストップウォッチかタイマーを用意して鏡の前に立ちましょう。

(全身が映るサイズの鏡があることが理想的ですが、無くても全く問題ありません)

 

基本の構えを崩さない(ガードを下げない)

シャドーに取り組む際、特に注意すべき点は何といっても、

基本の構えを崩さないよう意識することです。

初心者の方に多く見られるのが、最初はしっかり構えの姿勢が作れているのに、

時間が経つにつれてガードが下がり、顔面がガラ空きに……という状況です。

これではそもそも身を守るための第一歩であるディフェンスが成り立たず、

どれだけ続けても時間と体力の無駄になってしまいます。

シャドーを行う際は最初から最後までしっかりと基本姿勢(ベーシックスタンス)を保ち、

・ガードが下がらない

・顎が上がらない

・棒立ちにならない

という3点に気を付けながら取り組むようにしてください。

難しければ、最初の3分間は構えの姿勢を維持したまま、前後左右に小さくステップするだけでも構いません。

いきなりパンチを打とうとせず、基本姿勢を作るところからやってみましょう。

 

その場に留まり続けない(足を止めない)

姿勢の崩れと共によく見られる大きな誤りとして、

その場から一歩も動かない、というものが挙げられます。

パンチは綺麗に打てているし、ちゃんと基本の姿勢も維持できているのに、

足が全く動いておらず、いつまでも同じ場所に立ったまま……というのは好ましくありません。

ファイトはテレビゲームではありません。

相手も自分も動いていて、常に打つ位置・角度・高さは目まぐるしく、そして複雑に変化し続けます。

いつでも自分の手の届く位置に、全く動かず立ち続けてくれる標的などありはしません。

しっかりと攻撃者の姿を目の前に思い浮かべながら前後左右に足を運び、

縦横無尽に動き続ける意識を持つことが大切です。

よってシャドーを行う際には十分なスペースを確保し、

必要に応じて運動用のシューズを履くなど、滑って転倒するといったことが無いよう安全に配慮することが求められます。

(集合住宅等にお住まいの方は階下や隣室の方にご迷惑をおかけすることの無いよう、足音などに気を付けて行ってください)

 

攻撃だけに集中しない(ディフェンスの意識)

初心者の方だけでなくある程度慣れている人でもやってしまうミスは、

攻撃の動きだけを繰り返してしまうことです。

パンチならパンチだけを漫然と、同じようなキックの動作を延々と……それはそれで大切ですが、

あなたの目的が身を守ることならば、攻撃よりもむしろディフェンスの方へ意識を向けるべきです。

両腕でしっかりと顔を覆ってパンチをブロックする、肘で顎のラインをカバーするといった動作はもちろん、

小さく頭を振ったり、上体を傾けるなどしてパンチをまともにもらわないための動きを織り交ぜることには大きな意味があります。

グローブを付けて行うボクシングなどとは違い、素手のファイトでは拳一個分という比較的小さな面積のみを考慮すれば問題ないため、

頭は一個分ずらす、上半身は左右にほんの少し前傾させるだけで被弾リスクを大幅に軽減することができます。

普段のシャドーから頭や上体を動かす癖をつけ、少しでも受けるダメージを減らす意識を持つことが肝要です。

頭と上半身だけでなく、足を動かすのも忘れずに。

 

パンチは目線の高さかそれよりも上を狙う

下を向いて目線よりずっと下のほうにパンチを打っている方がいらっしゃいますが、

あなたが身長190cmの巨漢でもない限り、パンチは目線かそれよりも上を狙って打つべきです。

パンチを自分の目線よりも下、胸のラインめがけて放つということは護身を想定する場合ほぼ皆無であり、

攻撃者の顔面を狙うと考えた場合は自身の目線と同じか、それよりも上であることのほうがよほど現実的に違いありません。

特に女性や男性でも小柄な方の場合、攻撃者との間に大きな身長差(体格差)生じている可能性が高く、

体感的には目線よりもずっと上を狙わなければパンチが全く届かないということが起こります。

よって平均的な体格よりも小柄な方や女性がシャドーを行う際は、パンチを目線より上に向かって打つ意識を持つことが重要となります。

(パンチを上に向かって打つと肩の筋肉が鍛えられるため、パンチ力強化にも繋がり一石二鳥です)

 

リラックスして行う(力を入れすぎない)

「パンチの練習なんだから力を入れないと意味が無い」と思われるかもしれませんが、

実際に求められるのは適度な脱力(リラックス)です。

肩や背中に力が入ってしまうと動きが硬くなり、身体が本来持っている力を使い切れません。

適度に力を抜いてあげることで動作に関連する各関節の動きがスムーズになり、無理なく力を伝えられる自然なフォームが身に付きます。

また実際のファイトなどの極限状態では、過度の緊張を強いられるものであり、身体は勝手に硬くなるものです。

これは生理現象で避けがたく、プロも素人も関係なく直面する問題です。

普段からリラックスした状態で動く訓練を重ねておくことで、極限の緊張状態でも脱力を意識することができ、

本来の動きが出来るようになる可能性が高まります。

パンチを力いっぱい打ったり、腕や肩に力を入れて拳を振り回すのではなく、

拳は卵が潰れない程度にゆるく握り、肩は力を抜いて小さく上下させリズムを刻み、

ロボットのように硬くならないよう気を付けて取り組んでいきましょう。

 

パンチは腕をしっかりと伸ばし切る

よく「手打ちのパンチ」という言葉を耳にしますが、

腕だけならまだしもまともに腕が伸びてすらいないパンチを打つ方は頻繁にお見かけします。

パンチを打つ際にはしっかりと腕全体と伸ばし切るイメージを持ち、

肘が曲がったままになったり、肩を支点に振り回すだけにならないよう注意が必要です。

そのようなフォームの不正なパンチを何百、何千と繰り返しても全く効果はなく、

せっかくの練習がただの自己満足で終わってしまいます。

パンチを打つ際に肩や背中が縮こまった窮屈なフォームになってしまう方は、

両腕を広げて腰を回転させ、腕を左右にぶらぶらと振り回すような動作を繰り返して、

腰から肩、肘などが「連動する」という感覚を掴んでから再度取り組んでみてください。

 

路上のファイトを意識して行う

護身を目的として行うシャドーにおいて最も重要なことは、

ルールの無い路上のファイトを明確にイメージすることです。

路上のファイトでは基本的に、

・普段着を着用した状態

・互いに素手(あるいは何らかの武装)

・一対一とは限らない

といった状況が想定され、これらはボクシングなどの格闘技とは決定的に異なる部分であり、

何でもありという状況だけに、「何をやるのか」「何が最も効果的か」が最重要課題となります。

路上のファイトにおいてあなたの攻撃手段は基本的なパンチやキックのほかに、

・肘打ち

・頭突き

・金的蹴り

・目潰し

など多岐にわたります。もしも自己防衛を目的とし、路上のファイトを想定してシャドーを行う際には、

こうした特殊な攻撃手段も適度に織り交ぜながら、その場その場で最も効果的な攻撃手段を素早く組み合わせていく必要があります。

相手の服や髪を掴んだ状態から、あるいは最初に胸倉を掴まれた状態なども具体的にイメージし、

不意打ちの急所攻撃を軸にしたアグレッシブな攻撃を、4つから5つ以上まとめていく意識を持つことがポイントです。

(1つのコンビネーションを、4つから5つの攻撃で構成していくということです。例として、

肘打ち→頭突き→金的への膝蹴り→左右のパンチ→肘打ち

などが考えられます)


相手の姿をイメージするということ

シャドーという練習の最も大きな課題は結局のところ、

如何にして敵の姿をより鮮明に思い浮かべるか、ということに収斂すると考えられます。

単なるウォームアップとして、あるいは有酸素運動として取り組むというなら話は別ですが、

本気で身を守るためのスキルを磨くために行うのであれば、敵の姿をイメージできるかどうかでその効果は大きく変わってきます。

何も考えず漫然と鏡だけを見てフォームを確かめながら行うことも決して無駄にはなりませんが、

自分が攻撃を受けたときどんなことができるか、どんな対応が理想なのかを追求する上では不十分と言わざるを得ません。

繰り返しになりますが、ファイトはテレビゲームではありません。

「相手がいて、自分がいる」という単純なリアリティだけがそこにはあり、

遊びの要素や心のゆとりなどが入り込む余地は一切無いのです。

確かに、一人だけで本当に追い詰められた極限状態というものをリアルに想起するのは困難かもしれません。

ですが今あなたが護身術を学んで身を守りたいという意思を持っているならば、

そのきっかけになった体験が必ずあるはずです。

もしもシャドーに取り組む際には、どうかそのきっかけになった出来事を、

トラウマが呼び起こされない程度に思い出しながら、行ってみてください。

あなたが本気で「強くなりたい」「変わりたい」と思っているなら、

その恐怖心や劣等感が、きっとあなたの背中を押してくれます。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【防犯】相手と口論になったときに意識すべきこと【護身】

いつも心に1本の五寸釘を。どうもサイコ田中です。

国籍や性別・年齢を問わずリアルファイトのほとんどは些細な諍い、

特に小さな勘違いなどをきっかけにした口論から始まります。

今回はもしも誰かと口論になったときに意識すべきことについて、

現代護身術の戦略を基に解説していきたいと思います。


「口論に勝つこと」が目的ではない

もしも相手と口論になったとき、あなたが目指すべきなのはその口論に勝つことではなく、

その場からなるべく速やかに、そして(出来る限り)互いに無傷でその場から立ち去ることです。

それは口論になった相手が家族や友人でも、見知らぬ第三者でも変わりません。

あなたが首尾よく口論で相手を打ち負かすことに成功したとしても、

相手があなたを許すことはありません。そして恐らく相手はあなたに言われた言葉を一生忘れません。

口論に勝っても結局あなたが誰かを敵に回すことに変わりはなく、

口論が終わった直後にリアルファイトへと発展する可能性は否定できません。(むしろそうなる可能性のほうが高いとも言えます)

口頭でのファイトが始まったときにあなたが最初に意識すべきことは、

相手とのやり取りをいかにしてスムーズに、そして速やかに収束させるかということです。

決して言葉で相手を打ち負かしたり、論破することを目的にするべきではありません。

あなたがどんなに頭の回転や雑学、ボキャブラリーの豊かさに自信を持っていたとしても、

いきなり顔を殴られたら悲鳴を上げながらのた打ち回るほかはないのです。


口論の場面で意識したい3つのポイント

ここからは実際に相手と口論になった際に意識すべきポイントについて、

姿勢やコミュニケーションの取り方など3つの項目に分けて解説したいと思います。

ファイトは相手と向き合った瞬間から始まっています。まずは口頭でのやり取りを制し、

「闘わずして勝つ」ためのきっかけをつかみましょう。

 

相手に説明させる(喋らせる)

まず最初のポイントは、どんどん相手に喋らせることです。

例えば、

・「どうしてそんなことを言うのですか?」

・「どうしてそう思うのですか?」

・「ふーん、それで?」

など、相手に説明を求めるような言葉で応じたうえで、

相手に休む間もなく喋らせることが重要です。

あなたが相手に喋らせている間にやりたい(やるべき)ことは主に2つです。

1つ目は相手を観察し、情報を集めることです。

話している内容はもちろん、相手の服装や持ち物から凶器を隠している可能性の有無、

周囲に仲間がいるかどうか、酒や薬物で酩酊状態にあるかどうかなど、可能な限り多くの情報を収集する必要があります。

こうして集めた情報を基に、逃げるか闘うのかの判断はもちろん、その場で警察を呼ぶか、

しっかり話を聞いたうえで対応するかを決定します。

大切なことは、相手に喋らせている間に、目の前の相手だけを意識しないことです。

この後自分はどうするか・どうすべきなのかを、周囲の状況なども総合的に判断して意思決定し、

速やかに行動へ移す準備の時間として使う意識が重要です。

余裕のない場面でも相手が丸腰かどうか、体格差はどうかなどを最低限の情報を短時間に収集・整理することは必須と考えましょう。

2つ目はシンプルに時間を稼ぐことです。

これは特に相手が感情的になっていて、今にも手を出されそうな極限の緊張状態でこそ重要となるポイントです。

相手との体格差が極端に大きかったり、武器を持っている可能性が疑われる場面では、

実際に手を出されるまでの時間をどれだけ長く引き延ばせるかが課題になります。

パンチ一発で致命傷になることが容易に想像されるような大柄な相手を前に、

ぼんやりしていると問答無用でノックアウトされて病院送りにされてしまいます。

なるべく相手のほうに何かを喋らせ、もしも可能なら少しでも長く会話を成立させ、

相手を落ち着かせること(説得)、周囲の助けを求めることを意識しましょう。

もしも強い身の危険を感じ、「これ以上は持たない」と判断した時はやるしかありません。

時間を稼ぐのが難しい場面では意識を肉体的な防御または反撃に切り替えてください。

 

消極的・弱腰の対応を見せない

どんなに不利な状況においても、簡単に弱さ・脆さを見せてはいけません。

会話の段階で圧倒されるということは、精神的にマウントを取られることに相違なく、

そのままリアルファイトに発展した場合、まず勝ち目はありません。

口頭にせよ直接的にせよ、ファイトでは背中を見せたり相手から目を逸らしてしまった時点で負けです。

もしもあなたが一瞬でも弱気な姿勢や怯えた様子を見せたが最後、相手は更に攻撃的になり、

文字通りあなたにとどめを刺しに来ます。そこからの逆転はほぼ不可能です。

背中を丸めて目を泳がせたり、「えーと」とか「あのー」といった間投詞を多く用いることは避け、

毅然とした態度で相手と向き合い、はっきりとあなたの主張と立場を明らかにしていく意識が大切です。

注意すべきなのは、弱腰の対応にならないことと、挑発的・攻撃的な態度や言動を見せることは全くの別物ということです。

よく口論の場で肩を怒らせたり、顎をしゃくったりする攻撃的なボディランゲージを見せる人がいますが、

これは完全に逆効果です。

口論が始まった時点で、相手は既にある程度感情的・攻撃的になり興奮しています。

そこからあなたが相手を煽るような言葉を放ったり、身振り手振りを見せることは火に油を注ぐ行為に他ならず、

状況はエスカレートする一方で歯止めが効きません。

上に述べた通り、口論におけるあなたの最終目標は「速やかに、そして安全にその場から去ること」です。

絶対にファイトを望むような言動で相手を刺激したり、周囲を煽ったりしてはいけません。

結果もしも相手を本気でキレさせてしまったときは、その場で殺されたとしても文句は言えないでしょう。

 

いつでも身を守れる姿勢・立ち方を保つ

口論の場で最も恐ろしいのは、いきなり直接的な攻撃(パンチなど)を受けることです。

特に死角から側頭部や顎、首の周辺を打たれた場合のリスクは計り知れず、

打ちどころが悪いとその場で命を落とす恐れさえあります。

相手とやり取りをしている最中は姿勢と立ち方、立ち位置にもしっかりと気を配り、

突然の不意打ちにいつでも反応できるよう意識する必要があります。

安全な立ち方の一つとして、インタビュースタンスが考えられます。

インタビュースタンスは、ロダンの『考える人』をイメージするとわかりやすいかもしれませんが、

顎にどちらかの手を添え、その肘をもう片方の手で支えるようにする立ち方です。

この立ち方はファイティング・ポーズのように相手を刺激する恐れがなく、

しっかりと頭部(特に顎の周辺)と胴体の急所を保護できる効果的な立ち方であり、

現代護身術において最も基本的な立ち方の一つとして広く浸透しつつある基本姿勢です。

もしも咄嗟にこのインタビュースタンスを思いつかなかったとしても、

両手をポケットに入れたり、両腕を組んだりしなければ大きな問題はありません。

大切なことは、咄嗟に頭や胸の周囲、腹部をカバーできるということです。

学生や女性の方は、胸の前でカバンを抱えても抑止力となる可能性があります。

(両手が完全にふさがり反撃を想定した動きは制限されますが、カバンを投げる・ぶつけるという手段が残されています)


一番は聞き上手・話し上手になること

口論の場面を制する上で何よりも重要なこと、

それは聞き上手・話し上手であるということに他なりません。

相手の話をしっかり聞くことは相手を理解することであり、最適な対応を見つける最短にして最良の道です。

相手をよく知らないうちに敵と決めつけて応じるのは好ましくありませんし、

相手の立場と主張をしっかりと把握することで、あなたがその場を切り抜けるための主導権を握れる可能性だってあるのです。

また聞き上手であるだけでなく話し上手であることは、相手とのやり取りをより円滑なものにし、

互いが無傷でその場を立ち去るための突破口にもなりえます。

冷静に事実や根拠だけを並べて相手を論破していくのではなく、

ウィットに富んだジョークなどを織り交ぜながら相手の意識や攻撃的な感情を別な方向に逸らしていくことができれば、

その場を丸く収めることのできる確率はぐっと高まります。

普段から様々な分野の雑学や豆知識を貪欲に取り入れながら、ボキャブラリ―も増やして婉曲な言い回しも沢山身に着けておけば、

口論の場で武器として使えるあなただけの”キラーフレーズ”が必ず見つかります。

それは相手を一撃ノックアウトするパンチよりも効果的な技として、ファイトを終わらせるための強力な切り札になります。

相手と口論になったときはしっかりと相手の話を聞き、決して弱腰になることなく冷静に受け答え、

互いが無傷でその場を立ち去るための道を探りましょう。

そのためにまず自分の非を認めることは勿論、相手の立場・主張に耳を傾け受け入れる姿勢が大切です。

殴り合いの喧嘩は、傍から見ると酷くみっともないものです。

大人ならトラブルはしっかりと話し合いで解決させていきましょう。

「闘わずして勝つ」という言葉の通り、結局は争いを避けるのが一番に違いありません。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

ロシア生まれの軍隊格闘技”システマ”はフェイクなのか

いつも心に1年分のスニッカーズを。どうもサイコ田中です。

ロシア生まれの軍隊格闘技”システマ”を習い始めて、気が付くとかれこれ4年にもなっていました。

(2016年4月から主に東京・大阪での一般向けセミナーに参加)

ここまでシステマを学んでわかったことについてまとめましたので、

これからシステマを学ぼうとお考えの方、システマに興味をお持ちの方は参考にしてください。


システマとは何か

システマは、ロシアで生まれた軍隊格闘技であり、

冷戦期には「謎の武術」とされてきましたが、ソ連崩壊を皮切りに少しずつその全容が明らかにされ始め、

2000年代には護身術として日本でも指導を受けられるまでに一般化されました。

(かの有名なスターリンの元ボディガードが創始者というから驚きです)

システマは、

・呼吸

・姿勢

・脱力

・移動

といった4つの項目を軸に構成され、

独自の呼吸法と身体操作により「受けたダメージを無力化する」「小さな動きで最大のダメージを与える」といった、

まるで魔法のような戦闘技術が身につく、と考えられています。

(私はそんな力を身に着けられなかったので、本当かどうかはわかりません)

その抽象的で独特の技術体系から、システマは護身術業界はもちろん格闘技を扱う場においても、

インチキ扱いされることが珍しくありません。

なぜ、システマはフェイクと言われるのでしょうか。


システマがインチキ扱いされる5つの理由

ここからは、私自身の経験や指導者・参加者の言動などを基に、

システマがインチキ扱いされてしまう理由を5つ挙げたいと思います。

(システマの技術体系や思想・理念などを否定したり、システマに関わる方々を批判する意図は全くありません)

 

とにかく全てが「ゆっくり」

システマは、練習でもなんでもとにかくゆっくりしています。

高齢者向けの健康体操を想起するほど緩慢でメリハリがなく、

対人の練習もほとんどダンスのように緊張感がありません。

ある指導者が「ゆっくり行えない動作を早くやっても失敗するのが目に見えています」と、

至極真っ当なことを口にしていましたが、

全力(フルスピード)のパフォーマンスがイメージできないため実戦でどのような結果になるかがわかりにくく、

練習も終始ゆっくりした動作が求められるため、それが癖になると対応が一歩も二歩も遅れてしまい、

結果生存率が低下する恐れがあることは明白です。

システマを学んでいる恐らくすべての人が感じている最大の懸念事項は、

「本気で襲われたとき、本当にこのスピード感で対応できるのか」ということに尽きると思われます。

 

スパーリング・試合が皆無

システマはボクシング・空手のような競技格闘技ではありません。

よって防具をつけてスパーをしたり、ルールを決めた試合形式の練習も行われることは無く、

完全に座学と技術指導のみに終始しています。

試合が行われないのはいいとして、安全面などに考慮したとしても最低限スパーリングさえ行われないのでは、

自身が身に着けた技術がどのように活かされるのか、どう機能するかを知る術がありません。

確かに練習中パートナーと「ああでもない、こうでもない」と教えられた技を試行する時間はありますが、

全力で打つ、守る、カウンターを合わせるということは皆無に等しいため、

対人戦技を学んでいるはずなのにその実感が全くないという不思議なことが起こります。

「全てがゆっくり」と言う部分とも重なりますが、冬場などは一滴の汗もかかずに練習を終えるなどはザラです。

 

指導方針・指導内容がバラバラ

以前当ブログで扱ったハワイ武道”カジュケンボ”は、指導者が自ら新たな技を生み出すことが認められているため、

ジムや指導者ごとに指導内容が微妙に変わってくるという面白い特性があります。

しかしシステマはその本来の目的と理念から指導内容がある程度統一されているべきであるにもかかわらず、

指導者によって教えが変わることがあります。

例えばあるセミナーでAという指導者が言っていた通りに立ち振る舞おうとすると、

別のセミナーで指導者Bに「それは正しくない」と突っ込まれ困惑するということは、一度や二度ではありませんでした。

(単に私が根本的なミスを犯していた可能性も否定はできませんが)

その際「A先生はこのように仰っていましたが……」と質問すると、怪訝な表情で首を傾げられ、

「通訳が間違ったことを伝えたのかもしれない」という答えが返ってきましたが、

これでは指導内容そのものがガバガバだと思われても仕方がないでしょう。

日本人指導者でも指導者ごとに少しずつ解釈や考え方が異なっていて(それはそれで面白いのですが)、

結局「自分で考えてください」という残念なお言葉をいただく機会も少なくはありませんでした。

(私の参加した問題のセミナー2回が2回とも”ハズレ”だった可能性を考慮しても無理があります)

 

指導者が等身大の人物でない

システマの日本人指導者の方は普通かそれより少し大きいくらい、

中には平均より小柄な方も大勢いらっしゃいますが、

私が参加したセミナーのロシア人指導者は、例外なく全員が巨漢でした。

よくシステマのパフォーマンスで、ジークンドーのワンインチパンチのように、

小手先だけに見える小さなパンチで相手に大ダメージを負わせるというものが見られますが、

身長190センチ越えの大柄なロシア人が殴ったら、軽くでも痛いに決まっているのです。

ほとんどの日本人にとってガ〇ダム並みの怪物に見える大きなロシア人男性が、

「システマを覚えれば、あなたにもできます」と言いながらパートナーを軽く叩いて跪かせても、

「そりゃそうでしょ……」と思われるに違いありません。

もし仮に小柄な女性が同じパフォーマンスをして見せても、今度は合気道のようにインチキ臭くなって、

結局「システマって実際どうなの?」という印象を持たれることに変わりはないのです。

 

昇級・昇段といった概念がない

これはシステマのある意味最も致命的な欠陥で、

これが無ければ私の評価はもう少し違ったものになっていたと思うほどです。

システマには明確な級位や段位・ベルトシステムのようなものが存在しないため、

「誰がどの程度熟達しているのか」が明確にされることがありません。

明確なクラス分けもなく、初心者と上級者の混在などはザラであり、

似たような服装の場合は指導者と一般参加者の区別すらつきません。

これは空手や柔道の道場で全員が最初から黒帯を締めているのと相違なく、

練習中にパートナーを探すのも一苦労です。(みんなよくわかってないから、適当でいいとも言えますが)

ただ上下関係が皆無なためよくある体育会系の鬱陶しいノリや「しごき」はなく、

クラス全体の雰囲気は非常にアットホームで居心地がの良いものになるという長所もあります。

変に緊張したり指導者に媚びたりする必要はないため気楽と言えば気楽ですが、

緊張感が無さ過ぎて「危ない技術」を学んでいることを忘れてしまいそうになるのが玉に瑕というところでしょうか。


システマで強くなれるかと聞かれれば……

システマを始めようと思っている方、興味をお持ちの方に、

「システマをやって強くなれますか?」と聞かれたら、

私は素直に「わかりません」と答えることにしています。

システマを学び始めてから4年が経ちますが、あくまでも私自身については、

システマを学んでから飛躍的に身体操作が向上したとか、

強いパンチが打てるようになったという実感は得ていないというのが正直なところです。

もちろん運動神経に優れた若い人や、もともと格闘センスに溢れた人なら話は別かもしれませんが、

少なくとも何の格闘技経験もなく、今日までハードに身体を鍛えてきたわけでもない人がいきなり始めて、

あっさり強くなれるなどとはとても思えません。

勘違いされがちなのですが、システマで学ぶことができるのは相手を倒す技術というよりは、

自分や相手の身体をどのように動かすのか、どのように力を伝えるのかということであり、

その目的と理念は合気道のそれに限りなく近いと考えられます。

(合気道もまたシステマと同様に組手や試合がなく、動作が非常に緩慢なことが大きな特徴です)

もしも相手を倒す、極限状態を切り抜けるということを目的に据えるのであれば、

クラヴ・マガなどの実戦的な軍隊格闘技や総合格闘技を学ぶほうが遥かに効率的であり、

上達と共に強くなった実感も得やすいと言えるでしょう。

大切なことは、「何をやって強くなるか」ではなく、

「何のために強くなるのか」だと私は考えています。

あなたの目的が強くなることなら、その目的をさらに掘り下げ、

「強くなる目的」を明確にするところから始めましょう。

そしてあなたの”本当の目的”を果たすためにシステマが必要ならば、迷わずセミナーへ足を運んでください。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

あなたに最適な護身術の探し方と学び方

いつも心に1本のビーム・トマホークを。どうもサイコ田中です。

護身術を学ぶきっかけは様々だと思われますが、

自分にぴったりの流派や団体、指導者を探すというのはなかなか簡単ではありません。

今回はあなたに最適の護身術を探すうえでの注意点についてお話ししたいと思います。


「誰でも・手軽に」という謳い文句には要注意

どんなことにでも当てはまることですが、上手い話には必ず裏があります。

例えば格闘技ジムを例に挙げると、

「初心者さん歓迎!」「誰でも安心して学べます!」というポジティブなキャッチコピーが見られますが、

その実態は真逆であることが大半です。

そもそも格闘技にせよ護身術にせよ、対人接触が前提で、尚且つ「暴力とは何か」というテーマを扱う分野なのですから、

安全が保障されているはずが無いのです。(格闘技は、本当に危険なスポーツです)

そしてセルフディフェンス(自己防衛・護身)を扱う業界で最も質が悪いのは、

実際には全く使えない技術を、高い会費や指導料を取って指導する詐欺師のような団体の存在です。

この手の団体はとにかく会員数とそれに伴う知名度を高めることのみを目的としており、

指導者・指導内容の質はともかく、参加している会員そのものの質も極めて低い傾向にあります。

このような団体に属していても、実際に役立つ実践的な技術や知識は全く身につかず、

時間もお金も全て無駄になってしまうことは明らかです。

こうした団体では時間が経つにつれて練習内容や指導者の人格など、様々な部分に矛盾や違和感が生じてきます。

もしも練習に参加する中でほんの少しでも疑問や不安・葛藤を感じたときには、

別のジムや指導者を探すことを強くお勧めします。

(残念ながら悪徳業者かどうかは実際に参加してみなければ判別が出来ません。ある程度の時間と出費は覚悟しましょう)

 

怪しいジムや道場の特徴と共通点については以下の記事も参考になさってください。

↓ ↓ ↓

【小ネタ】怪しい教室(ジム)・セミナーの特徴と共通点【コラム】


あなたに最適な護身術の探し方と学び方

ここからはあなたにぴったりの護身術を見つける方法と学び方について、

年齢や性別・護身術を学ぶ目的など3つの項目に分けて解説したいと思います。

防犯・護身など身を守ることに興味をお持ちの方はぜひ参考になさってください。

 

未成年と女性はフィットネス感覚で格闘技から

護身術を学びたいのに、なんで格闘技……?と思われてしまうかもしれませんが、

もしもあなたが未成年または女性であるならば、まずは何らかの格闘技を学ぶことが最適解の一つです。

いきなり護身術を始めようとしても、ほとんどの団体やセミナーが未成年の参加を規制しています。

(安全面や犯罪等への悪用を防ぐなど、様々な問題を考慮してのことです)

また護身術やタクティカル・トレーニングを扱う施設は総じて入会金など費用面でのハードルが高く、

とても学生には賄いきれません。(一部例外もあります)

現状日本国内では女性向けセミナーを探すことも困難であり、そういった意味でもまずは身近なところで格闘技のジムを見つけ、

基本のフットワークなどを身に着けるところから入っても遅くはないはずです。

更に未成年と女性の方どちらにも共通の課題として、身体が全く出来上がっていないということが挙げられます。

これはセルフディフェンスを学ぶ上でなかなか致命的な部分で、クリアしなければならない最低条件とも言えます。

未成年の方でも、激しいスポーツに取り組まれている方はある程度身体が出来上がっているかもしれませんが、

身を守ることに関連するフィジカルは、単純な競技目的で作られたそれとは全くの別物と考えるべきであり、

「身体の動かし方」「身体の使い方」という部分から学び、作りかえていく必要があります。

特に運動習慣や激しいスポーツの経験が無い女性の場合は尚更であり、

いきなり護身術を学び始めても、最低限の体力が無いため練習についていけなかったり、

必要なスキルをスムーズに身に着けられない可能性が高いと言えます。

このような事態を回避するためにも、まずはフィットネス感覚で興味のある格闘技から始め、

基礎体力はもちろん、柔軟性・最低限のフィジカルを身に着けたうえで、

そこから実用的な護身術を学んでいくというのが理想的と考えられます。

格闘技を学んだだけで変なクセがついたり、応用力が低下するということはありません。

むしろセルフディフェンスを学ぶ前に何らかの格闘技・武道を学んでおくことで、

打撃系のオフェンス・ディフェンス技術はよりスムーズに習得でき、より短い期間でのステップアップが可能となります。

10代の学生または女性の皆さんは、まずはお近くの格闘技ジムを検索されてみてはいかがでしょうか。

(管理人のオススメは、ボクシングまたはフルコンタクト空手です)

 

実用性重視の社会人はクラヴ・マガ一択

とにかく実戦向けのテクニックを短期間で身に着け、

「強くなったという実感を得たい」「自分に自信が欲しい」という社会人の方には、

日本国内で学べる数少ない超実戦向け護身術”クラヴ・マガ”を強くお勧めします。

クラヴ・マガはイスラエル発祥の軍隊格闘技であり、

素早い急所攻撃や確実なディフェンス技術に加え、武器攻撃と武装解除にも対応するなどその応用力の高さは他に類を見ません。

独自のベルト・システムによりビギナーから上級者まで着実にスキルを延ばすことが可能であり、

補強トレーニングとしてウェイト・トレーニングやHIIT、グラップリングに打撃、総合など幅広いオプションも設けられており、

決して安くはない費用という問題点を補って余りある充実したプログラムの数々が最大の魅力と言えます。

費用面、体力面などで不安の無い社会人の方は、ぜひお近くのマガジムをお探しください。

現在東京都内ではマガジム、関西・東海地方では各種トレーニング・センターが利用可能です。

 

マガジム(東京都内のみ)

各種トレーニングセンター(東京・大阪・名古屋)

 

地方・田舎の場合は近隣の同好会を探す

上に挙げた格闘技ジムやマガジムなどは、どうしても都市部に集中しがちであり、

地方や田舎にお住まいの方には、見学すら困難と言うのが現状です。

ですが便利な時代になったもので、最近ではFacebookなどのSNSを利用することで、

地域の同好会や一般向け公開セミナーを探すことが容易となりました。

もちろん指導者や参加者の質にはムラがあり、本当に役立つ技術が学べるかどうかはある程度運次第になりますが、

「護身術を学びたい」という人は日本国内において少数派であり、

そのほとんどが高いモチベーションとスキルを共有できる信頼性の高いコミュニティとして成立しています。

中には変わった人、ちょっと危ない人が混ざっていることも事実ですが、

それはどんなジムやセミナーに参加しても同じことです。

もしも地方や田舎にお住まいで、護身術や格闘技を学べる場所が近くに見つからない時には、

SNSで同士を探して、自分たちで同好会や団体を立ち上げるというのも面白いかもしれません。

(グレーな知識や技術を扱うため、専門知識を持つインストラクターの監修が絶対条件です)


自宅待機の今こそ”オンライン学習”で宅トレ

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、日本国内においてもいよいよ全国に緊急事態宣言が発令されました。

感染予防措置として自宅待機・在宅勤務をされている方は多いかと存じますが、

そんな「引きこもり」の状態が強いられている今こそお勧めしたいのが、ネット動画を使ったオンライン学習です。

現在Youtubeでは、セルフディフェンスを扱う様々な団体が在宅学習用の動画を無料で公開しています。

ウォームアップから基本のドリル、自重を使ったワークアウトに至るまで実際の練習さながらの内容が動画一本にまとめられているため、

動画内のインストラクターの指示に従って動きを真似るだけでも十分効果的と言えます。

また対人練習を想定した「バーチャル・スパーリング」用のクリップなど、

護身術のみならず格闘技にまつわる動画も質の高いものが毎日続々とアップされています。

気になる動画があれば、ぜひ画面を最大化して、ジムにいるかのような気持ちで身体を動かしてみてください。

家から出られない今こそ出来る取り組みを通して、少しずつでも自信をつけていきましょう。

どんなことも決して無駄にはなりません。

あなたが本気なら、必ず生まれ変わるきっかけが見つかるはずです。

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

”ファイターの身体”を作る3つのルール

いつも心に1匹のニホンカワウソを。どうもサイコ田中です。

突然ですが、皆さんが身体を鍛える理由は何ですか?

とにかくモテたい、強くなりたい、ハードなスポーツをやっているなど、

理想や目的は人それぞれだと思われますが、

あなたがもしも「闘える身体」――すなわち”ファイターの身体”を求めているなら、

必ず知っておくべきルールがあります。


過剰な筋量(バルク)の追求は的外れ

かつては私自身もそうでしたが、「強くなりたい」「ファイトに勝ちたい」と考えると、

とにかく筋量(バルク)を追求しがちです。

確かに身を守る上で身体の大きさ、フィジカルの強さは強力な武器であり、

欠かすことのできない要素です。

しかしあなたが軍人や消防士などで、負傷した人物や重い装備を運ぶ機会などが無い限り、

過剰な体力や筋力は文字通り「ただの自己満足」に終始してしまうかもしれません。

そもそも100kg,200kgという重量を平気で挙上する体力があったとしても、

それをファイトに生かすとなると話は変わってきます。

ただ重いものを持ち上げたりする力と、強いパンチやキックを打つための力は、

全くの別物だからです。

それを理解しないでただ身体を大きくするためだけのハードワークや食事を続け、

もしもボディビルダーのような筋骨隆々の肉体を手に入れたとしても、

それは「見せ筋」と揶揄されても仕方がありません。

よく「使えない筋肉」という言葉が出てきますが、

「使えない筋肉」などありません。

「使い道」と「使い方」がわからないから、

持て余しているだけなのです。

筋トレのみならず仕事に勉強、どのようなことにおいても言えることですが、

目的とそこへ至るための方法を知らないまま闇雲に続ける努力は、空虚で愚かな戦いに違いありません。

あなたが本気で強くなりたいなら、まずはその目的を明確にしたうえで、

そこから見えてくる「本当に必要なもの」を地道に揃えていくしかないのです。


”ファイターの身体”を作る3つのルール

ここからは単なる筋肉の塊ではなく「闘い」に特化した”ファイターの身体”を作るためのルールを、

トレーニング内容など3つの項目に分けて解説します。

「本当の意味で強くなりたい」という思いをお持ちの若い方や、

目的もなく漫然と続けている筋トレの意味を見直したいという方は、ぜひ参考になさってください。

 

反動と連動性を否定しない

身体を大きくするための筋トレには、絶対的なルールが存在します。

それは、反動と連動性を徹底的に否定する(排除する)ということです。

反動と連動性がキーとなる典型的な種目として、懸垂が挙げられます。

懸垂は、下半身から全身を大きく使って反動をつけると、

普通に20回も30回も続けることができてしまいます。

確かにこれでは、全身の色々な筋肉が連動してしまい、

ターゲットとして想定される背中または肩にしっかりと刺激は入りません。(それどころかずっと抜け続けている状態です)

ですがパンチもキックも、全ては足元から全身各部の関節をしっかり連動させることで、

大きな力を伝えることが目的です。

例えばフックは一度上体を小さく回旋させ「溜め」を作ることで、

そこから縮んだ筋肉の反動によって相手を倒すノックアウトパワーを生み出します。

さらに上半身のみならず、下半身(脚)から腰にかけての連動もパワーの発生に関連しています。

このように、通常の筋トレでは完全に否定されるべき反動と連動性は、

格闘技などファイトに関連する身体操作においては欠かせない要素となります。

よってファイトを想定した身体づくりではむしろ反動と連動性のほうを強く意識したトレーニング内容を組み、

しっかりと下半身から上半身へと大きな力を伝えていく感触を掴むことが大切です。

(具体的なトレーニング種目として、ケトルベル・スイングや反動を使った懸垂などが考えられます)

 

漫然とウェイトトレーニングを続けない

上に述べた反動・連動性の項目とも関連する部分ですが、

「強くなりたい」と思うととにかく高重量を扱ったり出来るだけ高い負荷を追求したくなりますが、

単純な高重量・高負荷トレーニングは効果的とは考えられません。

確かに速筋優位の肉体に近づけるうえで、高重量低レップのトレーニングは欠かすことのできない種目になりますが、

本当に重視すべきは、そうして身に着けたパワーを「どのようにして伝えるか」のほうに違いありません。

ウェイトトレーニングのほとんどは自分の肉体から生じたエネルギーを何かに伝えるというよりは、

重い負荷や重量に必死に抗う・抵抗するというイメージが強く、受動的な面が大きくなります。

一方、サンドバッグを全力で叩いたり、メディシンボールを投げるといったトレーニングは、

肉体から作り出されるエネルギーをしっかりと伝えることを意識できる内容となっており、

能動的な側面が強まります。

「全身を使ってエネルギーを伝える」という感覚を身に着けることは、パンチ力やキック力を強化する上で不可欠なものです。

ただ漫然と高重量を扱うトレーニングを続けるくらいなら、

片手で拳を作ってグイグイ壁を押すだけのほうが、よほど効果的と言えるかもしれません。

 

適性体重と体型を探る

ここまで「単に体を大きくしても仕方がない」と述べてきましたが、

その本質は結局のところ、「人にはそれぞれ適した体格・体重がある」ということに収斂します。

例えば総合格闘家というと、筋骨隆々のアメコミ・ヒーローのような体型ばかりが想起されがちですが、

中には”ナチュラル体型”と呼ばれるどちらかと言うと華奢で頼りない印象を与える体型のファイターが存在することも事実です。

(UFCファイターのネイト・ディアス、ブライアン・オルテガらがこれに該当すると考えられます)

彼らは典型的な格闘家の肉体というよりは、むしろ起伏に乏しい標準的なボディラインを持ち、

腹筋が完全に割れているわけでもなければ、腕や脚が丸太のように太い……などということもありません。

それでも激しい打ち合いで相手を追い詰め、テイクダウンを決め、確実に相手をフィニッシュする力を持っています。

時には見た目だけなら2階級近く差のある相手を、一方的に圧倒する場面すらあるほどです。

このようなことが起こる背景には、骨格と適性体重(体型)の問題があると考えられます。

適性体重や体格と言われてもピンとこない方のために出来るだけ簡単な表現を用いると、

「本人が最も動きやすいと感じる体型・体重」ということになります。

これは完全に人それぞれで、身長や体脂肪率が全く同じでも見た目が全然違うということが起こってきます。

例えば同じ身長180cmのファイターA選手とB選手がいたとして、

A選手・B選手共に体重・体脂肪率が等価でも、骨格や各部の筋量の偏りなどにより見た目は変わってきます。

上半身はスーパーマンのようでも下半身が頼りないという典型的な”チキンレッグ”の場合や、

全身満遍なく鍛えられているせいで相対的に細くしなやかに見られたり、異常なまでに着痩せするパターンも珍しくはありません。

またあちこち脂肪が乗って腹筋が全然見えないのに動きがキレていたり、

筋肉の塊のように見えるのに全くパワーが感じられない不思議なファイターもいて、外見ではほとんどパフォーマンスを測ることができません。

ただ確実に言えることは、各々が自分の最高のパフォーマンスが出来る体型・体重を把握しており、

そのラインを維持するためのトレーニングや食事を続けているということです。

例えば適性体重が76kgのファイターは80kgでは重すぎるため減量が必要であり、

適性体重80kgのファイターは76kgでは軽すぎてパワーが発揮できないため、増量の必要があります。

体脂肪率10%では動きが重くなるなら7%へ、体脂肪率一桁台で体調が安定しないならギリギリ10パーセント台を維持するなどの工夫も求められ、

体型・体重管理の難しさは想像を絶します。

ですがそうして導き出された最適解は必ず自身の運動パフォーマンスを向上させることに繋がっており、

本人がその見た目や身体の仕上がりに納得しているかどうかは、全く別の問題と言えます。

そして各々が最高の力を発揮するための体重・体型は本人にしかわかりません。

体重を増やしたり体脂肪率を下げたりする過程で体型は大きく変化していくと考えられますが、

それがどれだけ頼りない体型になろうと、どんなに軽い体重になってしまおうとも、

自分が最高のパフォーマンスを出せる体型を見つけて維持していく事が何よりも重要であることは言うまでもありません。

身体が重すぎて機敏に動けないのに筋量を増やすのは意味がなく、

身体が軽すぎてパワーが足りないのにフィジカル・トレーニングを無視するのは本末転倒です。

体重が重すぎる場合は可能な限り絞り、軽すぎる場合は限界まで増量を試みたうえで、

自身の適性体重と体型を探りながら足りない部分を補うように鍛えることが、ファイターの肉体を手に入れる最短の道です。

(肩や腕、背中など特定の部位にフォーカスしたトレーニング・メニューにはあまり意味がないということです)


「何を目指してるの?」と言われないために

筋トレを続けていると周りから「一体何になりたいの?」などと言われ返す言葉が無いという方がいらっしゃいますが、

明確な目標や目的が無ければ、そのように揶揄されても仕方ありません。

既に上で述べた通り、どのような努力も全て明確な目的意識と方法の追求により初めて意味を持ちます。

あなたが周囲から白眼視され冷たい言葉を投げかけられているのならば、

それはあなたの目的意識が不十分で希薄なものであり、説得力の欠けた理由になっているからかもしれません。

例えばダイエットしたいと言っている人が脂質や炭水化物を積極的に摂取するのは不自然であり、

逆にバルクアップしたいと考えている人が十分な量の食事を確保しないのは筋が通りませんよね。

あなたの目的が「身体を大きくすること」だとして、その目的の背景にあるものは何ですか?

ただ何となく女性にモテたいとか、重いものが持てるようになりというのも間違いではありませんが、

そのような輪郭のぼやけた曖昧な目的意識では、「何を目指してるの?」と問われても文句は言えないのではないでしょうか。

あなたが目指すもの、手に入れたいものが明確になれば、必ずそれはあなた自身の顔つきや言動にも表れ、

周囲にもはっきりと伝わるはずです。

私は職業柄身体を鍛えること、絞ることがある意味当然であり、

よって周囲から身体を鍛えることについて疑問を投げかけられことも、批判を受けたこともありません。

あなたがアスリートでも格闘家でもボディビルダーでもない、ただの一般人――それは全く問題ではありません。

問題なのは、あなたが一体何をどうしたいのか、どのように生きたいのかということです。

あなたが自分らしく生きるために筋トレが必要ならば、徹底的に鍛えればいいでしょう。

誰が何と言おうと「これが自分だ」と言えるものがあるなら、それを徹底的に貫き通せば済む話です。

もしも身体を鍛えること、食事を管理したり体重・体脂肪率を測ったりすることにわずかでも疑問があるのなら、

それはあなたが本当に望む生き方ではないのかもしれません。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

ツールディフェンス基礎【ツールの選択と基本的な扱い方】

いつも心に一冊の胡散臭い実用書を。どうもサイコ田中です。

セルフディフェンスの基本は徒手格闘(素手での対応)になる思われますが、

状況によってはやはり何らかのツールで武装できるほうが生存率が高まることも事実です。

(特に女性やお年寄りなどフィジカル面でハンデがある場合、徒手格闘は適切とは言えません)

今回はそうしたツールディフェンスの基礎として、

自分に合ったツールの選択と基本的な扱い方について解説したいと思います。


素手で闘うのは出来れば避けたいが……

どのようなシチュエーションでも、基本的に素手でのリアルファイトは回避したいところです。

素手での対応には、

・拳や手首の負傷

・殺傷力(攻撃力)の不足

・血液感染などのリスク

という問題点があることは勿論、シンプルにフィジカル(体力)に依存する部分が大きすぎ、

非力な女性や高齢者、学生が身を守るにはあまりにハードルが高すぎるというのが現実です。

しかしその一方で、ツールや凶器による自己防衛も大きな問題点を抱えています。

まずどのようなツールも身を守るためある程度の殺傷力(攻撃力)を持っていますが、

使い方によっては不必要に相手を傷付け過剰防衛に問われたり、

最悪の場合相手の命を奪う結果につながる恐れさえあるため注意が必要です。

また一部の護身用ツールは持っているだけ(持ち歩いているだけ)で軽犯罪法に抵触し、

もしも職務質問を受けた場合は面倒なことになる可能が高く、気軽に購入・所持することもオススメは出来ません。

身を守るためにある程度の武装(武力)が必要なことも事実ですが、

出来ればボールペンやハサミなどのようにどこにでもあるような、

あるいは持っていても全く不自然でないようなものを武器にするのが理想的には違いありません。


最適なツールの選び方と基本の握り方・扱い方

ここからは体格や運動の経験など様々な観点から見た護身に適したツールの選び方と、

握り方など基本的な扱い方について解説します。

これからツールの導入を検討されている方や、

既に持っているが使い方がイマイチわからないという方はぜひ参考になさってください。

当ブログでは何度も繰り返しお伝えしていることですが、

ここで紹介する知識やテクニックは身を守る目的にのみ用い、

絶対に悪用しないようにしてください。

また護身用ツールの導入と所持は完全に自己責任でお願いいたします。

 

自分に合ったツールの選び方

年齢や体格・運動の習慣などによって変わってきますが、基本的にツールを導入する際の注意点は、

・銃刀法に抵触しない(普通は最初からクリアしています)

・携行していても不自然でない

・すぐに取り出して安全に使える

の3点です。詳しく見ていきましょう。

 

まず「銃刀法に抵触しない」というルールですが、

これはシンプルに所持・携行が出来ないため手に入れられない・持っていると捕まるため意味が無いという理由からであり、

一般的な市販のツールは最初からこのラインをクリアしているため気にする必要はあまりありません。

次に「携行していても不自然でない」という点ですが、こちらは職務質問を受けたりして手荷物を調べられたとき、

あなたが正当な理由を説明できれば問題ない、という意味合いになります。

逆に対象のツールについてあなたがそれを持っている理由をきちんと警察官に説明できないとか、

所持することが認められる資格などを示せない時には、非常に面倒なことになると思っておいてください。

(所持しているだけで逮捕された事例もあるため、いかなるツールも決して軽い気持ちで持ち歩いてはいけません)

最後に「すぐに取り出して安全に使える」という項目ですが、この部分が最も重要です。

持っていてもどこにあるか忘れたり、すぐに取り出して構えられないようでは全く意味がありません。

また正しく安全に使えなければ自分自身が怪我をしたり、攻撃者を過剰に傷つける恐れがあるため好ましくありません。

(攻撃者に奪われて逆効果になるという可能性も考慮する必要があります)

どのようなツールも必ず正しい使い方の指導を受けたうえで、自身がそれを持ち歩き、いざという時使えるか、

使うべきなのか(使ってもいいのか)を十分に考慮し、自己責任で導入しましょう。

護身用ツールを自己防衛ではなく、誰かを傷付けたり脅したりするために購入・所持するのはそれ自体が既に犯罪です。

(他者を傷付ける恐れのある道具を「護身用」と称して持ち歩くのも言うまでもなく犯罪です。注意しましょう)

 

ツールの種類と適性

ツールには様々な種類がありますが、基本的には以下の3つに大別されます。

・近接格闘武器(警棒・タクティカルペンなど)

・非接触系装備(スタンガン・催涙スプレーなど)

・遠距離制圧用装備(さすまたなど)

 

警棒やタクティカルペンなどの近接格闘武器は、安全に扱うためにある程度のフィジカル(体力)を必要とします。

握ったツールを落とさない腕力(握力)は勿論のこと、振り回しても流されない体幹・下半身の強さなど、

基本的な運動に関連する筋力が鍛えられていることが前提であり、攻撃者との距離感を正しく見極めるため、

格闘技等の経験も求められます。

スタンガンや催涙スプレーと言った非接触型の中近距離用ツール全くフィジカルに依存しない代わりに、

マニュアル等で正しい使い方を把握し、専門的な知識を持った指導者から最低限の教習を受ける必要があります。

さすまたのような遠距離制圧に特化した武装は主に警察官や本職のセキュリティ、学校教員などが用いるものであり、

一般人が護身のために持ち歩くようなものではないため、ここでは扱わないものとします。

 

その特性から、近接格闘武器は主に体力のある若い男性から格闘技経験のある中高年の方に適していると考えられ、

導入そのものは容易でも、実際に運用するのは多少ハードルが高いという印象があります。

一方、スタンガンのような非接触型の武装は即効性が高くフィジカルに依存しないため取り回しが比較的容易な反面、

その効果(殺傷力)から所持・携行が難しく、実際に使う際には法的な側面での問題点が生じるため注意が必要です。

次にそれぞれの基本的な取り扱いについて説明します。

 

近接格闘武器の基礎

近接武器には重さ・大きさなど様々なものが存在しますが、どれも使い方のコンセプトは変わりません。

それは「強く握って全力で殴打する」ということです。

特に警棒のようなものは振り回すだけで強い抑止力(威嚇)になるため効果があり、

実際に当てる必要すらないため互いに無傷でその場から立ち去れる可能性が高く、安全と考えられます。

また一見武器かどうか区別のつきにくいタクティカルペンやクボタンは手の中に隠し持つことに特化しており、

攻撃者に不意打ちの一撃を加えて速やかにその場から立ち去るというのが主な使い方として想定されます。

以下、基本的な握りと攻撃方法について簡潔に説明します。

 

ニュートラル・グリップ

刃物の場合は親指が刃先のほうを向くように握る握り方です。

最もオーソドックスな握り方であり、長所と短所がはっきりしていることが特徴です。

突く(刺す)・振る(切る)・受ける(防ぐ)という3つの基本動作全てに対応し、

直感的に腕を振るだけで抑止力になることが大きな強みと言えます。

一方で、握力が不十分な場合は側面や上からの衝撃や打撃などにより手からすっぽ抜けてしまう確率が高く、

武装解除されないために慎重な扱いが求められるという弱点があります。

 

リバース・グリップ

アイスピック・グリップ(Ice-pick grip)とも。

刃先が小指側に来るように握る持ち方であり、応用力の高い非常に高度な握り方と言えます。

ニュートラル・グリップ同様に突く・振る・受けるの全てをスムーズに行えるだけでなく、

親指でグリップの末端をしっかりとホールドできるため安定性が高く、手からすり抜けにくいという強みがあります。

またタクティカルペンのようなものであれば直感的に上から振り下ろすだけで十分なダメージを与えられるため扱いが容易であり、

空いているほうの手(Empty-hand)で殴打する・攻撃をブロックするといった対応も増えて戦略面での幅が広がります。

もしも攻撃者が凶器をこのように握っている場合は最大限の警戒が必要と言えるでしょう。

(今日までの私個人の経験上、何らかの訓練を受けている人間が好む握り方という印象があります)

 

非接触系装備の基礎

スタンガン・催涙スプレーといった非接触型のツールを所持する際は必ず製品のマニュアルを熟読の上、

販売者または専門家から正しい使い方の指導を受ける必要があります。

使い方を間違えた場合は過剰防衛案件に繋がることは勿論、自身が受ける被害が拡大する恐れがあり大変危険です。

どのようなツールも使うタイミングや相手をしっかりと見極め、

攻撃者を「襲う・倒す」ことが目的にならないように注意が必要です。

(言うまでもなくツールを自己防衛以外の目的で用いることは犯罪です)

ここではスタンガン・催涙スプレーの使い方について簡単に解説しておきます。

 

スタンガン

攻撃者に押し付けるようにして使うことが前提であるため、

・取り出すタイミング

・放電(攻撃)するタイミング

が非常に重要です。

首筋や脇腹を狙って放電するのが一般的な使い方ですが、

相手の動きを止めるだけなら腕や脚、手の指先だけでも十分な効果が期待できます。

最大出力で胸などの急所に当てさえしなければ命を奪うほどのダメージにはならないためその点の心配は不要と思われますが、

物騒なアイテムには違いないため気軽に持ち歩くべきではないでしょう。

(自分が感電する”自爆”には十分注意が必要です)

 

催涙スプレー

一般的な製品は攻撃者との距離を1メートルから3メートル程度に設定しており、

この範囲で最大の効果を発揮すると考えておけば問題ないと考えられます。

しっかり顔面に内用液を噴射することが理想的ですが、少しの量でも吸い込むと大ダメージになり、

・一定時間目が開かない

・唾液や鼻水、涙が止まらない

・軽度の呼吸困難

などの状態に陥ります。

内用液は前方にしか噴射されませんが、場合によってはある程度四方に拡散し、

防衛者(スプレーを使った人間)がダメージを受けたり、全く関係の無い第三者が何らかの影響を受ける恐れがあるため注意が必要です。

また内用液が特殊な染色素材を含んでいたり、強い臭いを発するようなものであった場合は、

使用した場所(駅や飲食店の店内など)によっては何らかの法的手続きが求められたり、現場に駆け付けた警察官に注意を受ける可能性もあります。

手軽に使えることを売りにした製品が目立ちますが、そのほとんどが上記のようなリスクや”自爆”のダメージを一切考慮していないため、

安易に導入することは避けるべきでしょう。


ツールの携帯・使用は完全に自己責任で

当ブログでは何度も繰り返しお伝えしていることですが、

自己防衛(護身)を目的としたツールの導入と所持・携帯は完全に個人の自己責任に委ねられています。

簡単に言えば、「持つのは自由だけど、どうなっても知らないよ」ということです。

身を守るためとはいえ、どのようなツールもある程度は「凶器」としての側面を抱えていることは否定できません。

扱いを間違えればその目的が一瞬にして”自己防衛”から単純な”暴行”または”殺人未遂”へと発展し、

被害者のはずが終わってみれば加害者になっていた……などということは決して珍しくありません。

本当にあなたの目的が身を守ることならば、「凶器」としての側面を持った道具を積極的に手にするべきではないでしょう。

それでもあなたがツールを買って持ち歩くというのならば、止めはしませんが……。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

【小ネタ】体術・呼吸法がナンセンスと言われる理由【コラム】

いつも心に1皿のおつまみセットを。どうもサイコ田中です。

日本で護身術というと、必ずと言っていいほど合気道やシステマなどの、

いわゆる身体操作や体術・呼吸法にフォーカスした武道などの名前が挙がりますが、

実は現代護身術においてそうした技術体系や考え方はほぼナンセンスなものとされています。

なぜ体術や呼吸法は覚えても仕方がないと言われるのでしょうか。


足捌きや呼吸法だけでは「生き残れない」

ちょっと考えればわかることですが、華麗な体捌きや呼吸の使い方をどれだけ覚えたところで、

いきなりナイフで刺されたそこで終わりです。

銃口を向けられたら、いわゆる「達人」と呼ばれる人物でもパニックを起こすでしょう。

残念ながら身を守ることと、身体の使い方や呼吸によって力や痛みの感じ方をコントロールすることには、

ほとんど相関がありません。上に述べた通り、いきなり殴られたり刺されたり撃たれたりしたら、呼吸もクソもないからです。

(かなり汚い言い回しになりましたが、恐らくこれが現実です)

護身術として体捌きや呼吸法を教えるということは、

水泳が上手くなりたいと言っている人に、陸上で速く走る方法を教えるのと同じくらいナンセンスなことだと、私は考えています。

なぜそのような考えに至ったのかについて、もう少し詳しく述べたいと思います。


体術・呼吸法が機能しない3つの理由

ここではいわゆる体術・呼吸法がセルフディフェンスとして十分に機能しない理由について、

私自身の経験等も踏まえつつ、3つの項目に分けて解説したいと思います。

もしも身を守る目的で合気道やシステマ・古武道などを学ぼうとお考えの方や、

現在そうした武道を実際に学んでおられる方がいらっしゃいましたら、ぜひ参考にしていただきたいと思います。

(当該の武道・武術の技術体系や思想そのものを批判・否定する意図は全くありません)

 

ストリート(路上)向けに最適化されていない

言うまでもありませんが、体術・呼吸法をベースとした格闘技や武道のほとんどが、

「路上におけるルールの無いファイト」を全く想定していません。(例外もあります)

ナイフで切りつけられ文字通り殺されそうになっている時に、

「呼吸法を思い出せ……よし、これで大丈夫!」なんてことには恐らくなりませんし、

体格差の大きい相手に服を掴んで恫喝されているような場面で、

「”入り身”でどうにかなるはず」などと考えていても、顔を殴られた瞬間パニック状態に陥って思考停止するでしょう。

体術や呼吸法にフォーカスしている武道が共通して抱えている問題点の一つは、

「本気で殴られる、または襲われるという状況を想定していない」ということです。

お互いどのように動くかが決められている「型」の反復には全く緊張感がなく、

練習自体も裸足で畳やマットの上で行うことがほとんどで、靴を履いてアスファルトの上で襲われたときの対応力は低下すると考えられます。

また稀に刃物などを持った相手を想定した体捌きの指導もありますが、

練習相手はあくまでも”パートナー”として接し、技の形が成立するように協力するためほとんど意味がありません。

指導者も「ここに、こうやって攻撃してきなさい」と言ってパンチの打ち方さえ細かく指定してくる始末です。

これがナンセンスでなく一体何だというのでしょうか。

私はかつて合気道の道場で「先生」と呼ばれる人にいきなりローキックを食らわせてその場で出禁を言い渡されたことがありますが、

要するに”そういうこと”です。

(少し辛口になってしまいましたが、これが現実です)

 

基礎を身に着けるのに時間がかかりすぎる

体術・呼吸法に重きを置いている武道の致命的な問題点は、

習得するのに時間がかかりすぎることです。

私が東京でシステマのセミナーに初めて参加した際、

「ちゃんと重力(身体の重さ)を感じられる立ち方から覚えろ」と言われ、

他のビギナーの方といっしょに小一時間ひたすら道場の端っこに立たされ続けたときは、

心底呆れ果てて言葉を失くしました。

我々が学びたいのは、

「目の前の相手を、今すぐその場で倒し、無傷で帰宅する方法」であって、

・重力を感じる立ち方

・痛みを感じなくさせる呼吸法

・大きな力を出すための身体操作

などは、極めてナンセンスなものに違いありません。即効性が無く非効率で、ただただ冗長なだけで意味が無いのです。

結局問題のシステマ教室には決して安くはない会費を払って1年間通い続けましたが、

地道に件の”立ち方”や基礎の呼吸法、パンチの打ち方などを習得したと思ったら、

「まだまだ基礎の基礎」と告げられ完全に心が折れてしまいました。

(私の忍耐力が足りなかっただけかもしれませんが)

すぐにその場で身に着けて明日から使えるようなテクニックやアイデアを身に着けられなければ、

「その日」が来たとき身を守れません。

なるべく短時間で覚えられて、尚且つしっかりと効果を実感できるような技術体系でなければ、

忙しい現代人に適した護身術とは言えないでしょう。

 

精神論で片付けられてしまう

特に体術系の武道では年配の指導者が口をそろえて、

「内面を磨きなさい」とか「心の目で相手を見なさい」など、

抽象的で訳の分からないことを言い出す傾向にあり、これも大きな問題の一つと言えそうです。

ナイフを持った相手を速やかに制圧したり、

2対1の状況を切り抜ける方法を学びたいのに、

「水の心で……」とか言われたら、ポカンとしてしまいますよね。

精神論でどうにかなると信じているなら、体重移動も呼吸法も関係ない、

それはもはや宗教に他なりません。

信仰心で強くなったりいざという時身を守る力が手に入るなら、

催涙スプレーも特殊警棒もこの世には必要ありません。(そもそも戦争や犯罪・暴力などが根絶されていないとおかしい)

このような武道・武術を習得しても身を守ることに直結しないことは、

もはや語るまでもありません。


内面を磨くことも大切だが……

国や地域を問わず伝統的な武道ほど内面を磨く教えや訓練に力を注ぐ傾向にありますが、

それらは本当の極限状態において気休めにもならないものです。

銃を乱射している人物がいる空間で必死に十字を切っても、撃たれたら終わりです。

聖書の一節を唱えても目の前の酔っ払いは止まりません。

あなたが本気で身を守りたいのなら、十字架は手に持って振り回しましょう。

聖書は投げつけるか、手に持って殴打してください。

それが実戦におけるセルフディフェンスであり、生き残るためのテクニックです。

宗教などの教えと現実のファイトにおける戦略は完全に切り離して考えるなど、

精神論と実際の防衛手段を混同しないように注意が必要です。

もしも精神論ばかりに力を注ぎ、実技を重視しないセミナーや道場に参加しているなら、

別の指導者や教室を探すことを強くお勧めします。

私たちの時間やお金・エネルギーや有限です。

セルフディフェンスを学ぶ第一歩として、これらの資源を正しく効率的に運用することから始めていきましょう。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

防衛手段としての投げ技・テイクダウンの効果とリスク

いつも心に1丁のコルト・パイソンを。どうもサイコ田中です。

日本はともかく海外ではブラジリアン柔術や柔道の指導者が、

投げ技やテイクダウンをそのままセルフディフェンスに応用するテクニックを紹介しているのを見かけますが、

実際のセキュリティ業務に従事していた私にとってそれらはあまり現実的とは言えず、

多くの疑問を感じるというのが正直なところです。

今回はそうした柔術等の投げ技・テイクダウンといった技術体系を護身の分野に応用する際の効果と危険性についてお話ししたいと思います。


実際のリアルファイトはとにかく地味

よくドラマや映画では、登場人物が暴漢などを華麗に制圧して地面に組み伏せたりしていますが、

現実はもっと泥臭く地味で、みっともないものになることが大半です。

どうにか相手を押さえつけたはいいにしても、顔面は血だらけでお互い服がはだけてボロボロとか、

暴れる相手を抑えようとして顔中鼻水や唾液、返り血でぐちゃぐちゃというのは珍しくありません。

あまりに幼稚で動物的なものであり、とてもスマートな対応とは言えませんが、

攻撃者も防衛者も互いに「本気で」「必死で」向き合っている場面というのはそういうものです。

普段は完璧なフォームでシャドーが出来たり、華麗にミットやサンドバッグを叩く人が、

いざファイトになるとフォームも何もない、素人と変わらない挙動になってしまうのは、

それだけ目の前の状況が切迫していて、普段通りに動けないほどの緊張を強いられているからに他なりません。

どんな分野でも反復練習は大切なものであり、基礎を疎かにして得られるものなどありませんが、

セルフディフェンスのように過度の緊張状態、高いストレスに晒された状態を想定した技術体系では、

特に基本の動作を正確に再現できるかどうかが課題になります。

ストレスの影響を受けず「いつも通りの動きができる」というのは決して簡単なことではありませんが、

極限状態で大きな力を発揮する武器になります。

もしもあなたがトラブルの現場で漫画や映画の登場人物のように華麗に立ち振る舞いたいという願望を持っているなら、

一流アスリート並みの精神力と基礎の反復が求められることは言うまでもありません。


護身術としての投げ技・テイクダウンの効果とリスク

ここからは護身術として投げ技やテイクダウン、グラウンドテクニックを応用する際のメリットとデメリットについてお話しします。

柔術や柔道を習っていてそれらを護身の目的に使おうとお考えの方や、

これから護身術としてそれらの格闘技を学ぶことをお考えの方は参考になさってください。

安全なテイクダウンと制圧の方法も併せて紹介しています。

 

投げ技の利点と危険性

路上のファイトにおいて、キレのある投げ技は強力な武器になります。

相手を一瞬にしてその場に組み伏せ動きを制し、余計な追撃が不要なためそのまま助けを呼ぶことも出来ます。

また相手が武装しているような場面でも確実なテイクダウン技術を持っていれば優位に立てることは間違いなく、

武装解除までの流れを安全に、そして速やかに構成することができるという点も大きな強みと言えます。

 

しかし圧倒的な強みのある一方で、投げ技にはいくつかの致命的なリスクがあることも事実です。

まず相手を誤って頭から、あるいは背中を強打するような形でコンクリートやアスファルトの上に投げ落としてしまった場合、

打ちどころによっては命に関わるダメージを負わせてしまう恐れがあり、大変危険です。

(これはパンチなどでノックアウトした相手が失神して後ろ向きに倒れるなどした場合も同様です)

また安全にテイクダウンしたつもりでも相手が身体に何らかの疾患や障害を抱えていたような場合も、

場合によっては命を落としかねない事態に繋がるリスクがあることも事実です。

さらに投げ技・テイクダウンしか選択肢が無い場合、「その対応が適さない場面」での柔軟性が大幅に低下するため、

結果として自分自身の身を危険に晒すという可能性も無視できません。

このように、柔術・レスリング・柔道などの組技系、投げ技系格闘技をそのままセルフディフェンスとして応用するには多くの課題があり、

初心者はもちろん、該当する格闘技の経験者自身にもお勧めできないというのが私個人の見解です。

(柔術や柔道などが護身術として役立たないという意味合いではありません。誤解を与えてしまった場合は申し訳ございません)

 

安全な倒し方と制圧のポイント

路上のファイトで安易に投げ技やテイクダウンを用いると思わぬリスクに晒される可能性があることをお話ししたところで、

ここからは路上における対人トラブルの場面でなるべく安全に相手を倒すテクニックと制圧する際のポイントについて解説したいと思います。

 

足を踏んで体勢を崩す

現代護身術ではメジャーなテクニックであり、多くのセミナーで中級者以上を対象に実演されることが多い印象があります。

やり方はいたって簡単で、シンプルに相手のどちらか片方の足(つま先付近が望ましい)を踏みつけ、

適度な力で押す・引くなどして体勢を崩してやるだけです。

あまりに体格差の大きすぎる場面では使い物になりませんが、体格が同程度か自分よりも小さい相手の場合は、

これだけでその場に相手を転ばせたり、大きくバランスを崩させることが可能です。

相手が質の悪い酔っ払いなど、直接手を上げたり投げ倒したりするのが好ましくない場面で特に有効であり、

上手くやれば相手の靴を脱がして裸足にすることができるため、そのまま逃げるというオプションも広がります。

 

首根っこを掴んでうつ伏せに倒す

路上で投げ技・テイクダウンを用いる際の致命的なリスクは、

倒した相手が背中や後頭部を強打してしまうことです。

こうした事態を避けるためにも、相手を倒す際はなるべくうつ伏せに、

顔が地面につくようにして倒すことが好ましいと考えられます。

私が実際にセキュリティとして勤務していた際に用いていたテクニックは、

シンプルに相手の首根っこ(シャツや上着の襟)を掴んで、

頭を強打しないよう腕で支えながら組み伏せるというものです。

このようにすれば命に関わる急所を強打するリスクは大幅に軽減でき、

凶器を持っている場合も腕を後ろに回してチェック又はコントロールすることが容易になります。

体格差が大きい場合は困難なうえに、安全性を最大限まで高めるためには2人以上で臨む必要がありますが、

相手を必要以上に傷つけることの無い、比較的優しいテイクダウンと制圧には違いありません。

 

後ろから近付いて膝カックン

冗談みたいに聞こえるかもしれませんが、安全かつ効果的なテイクダウンの一つです。

裸絞か羽交い絞めの形で後ろから相手の上半身の自由を奪い、

軽く膝の後ろ側かふくらはぎを蹴って、ゆっくりと後ろ向きに倒していきます。

非常にメジャーなコントロール・テクニックですが、注意点が2つあります。

1つは、自分から腰を落として体重をかけ、座り込むようにすることです。

当たり前ですが、相手を抑えたまま何も考えず後ろに倒れこむと、

尾てい骨や腰、背中などを強打して自分がダメージを受けることになります。

ゆっくりと尻もちをつくように、膝のクッションを使って重さと衝撃を吸収しながら腰を落としていけば、

自分も相手も大きなダメージを受けることはありません。

2つ目のポイントは、相手の頭を力任せに引かないことです。

よく後ろ向きに倒すテクニックを実演する際、後ろから目隠しをするように相手の顔を両手で覆い、

そのまま強引に後方へ引き倒すようにするパフォーマンスを見かけますが、

首や背中に強い負担がかかると同時に、後頭部から地面に崩れ落ちる可能性があり大変危険です。

相手を後ろ向きに倒して制圧する際には必ず相手の身体に密着するような形で自分が地面との間に入り、

足元からゆっくりと座り込むようにして倒すことを心がけましょう。


やむを得ず相手を投げる際には「足元に注意」

ここまで投げ技・テイクダウンが持つ強みとそのリスクについてお話してきましたが、

「それでも俺は敵を投げ倒す」というタフな方には、ぜひご自身の足元に注意を向けていただきたいと思います。

投げ技に絡んで私が経験した最も恐ろしい事態は、

「相手を投げた床に大量のガラス片が……」というものでした。(想像するだけで痛いし怖いですね)

居酒屋やバーなど、お酒の席で特に多いと思われるのが、割れた食器や瓶などの破片が床に散乱しているというシチュエーションです。

このような状況では投げ技・テイクダウンは勿論のこと、取っ組み合いなどのグラウンドファイトに発展した場合、

両者ともに信じられないほどの外傷を負う可能性が高く、大変危険と言えます。

他にもシンプルに投げ落とした先が硬いコンクリートの上だったとか、

錆びた釘が何本も突き出しているような古い家屋の床だったなど、

過剰防衛案件になること間違いなしの状況はいくらでも想定されます。

投げ技・組技・テイクダウンに絶対の自信があるという方も、

どうか攻撃者を制圧する際には足元の状況をしっかりと見極めてほしいと思います。

あなた自身が加害者、ひいては犯罪者にならないためにとても大切なことです。どうか忘れないでください。

 

 

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。